特定機能病院の入院医療の包括評価について
      
 DPCをご存じですか。
 
 この文章はメルマガ「かかりつけ医通信55号」にも一部要約を掲載しています。
 平成15年4月から特定機能病院における入院医療費の包括化が始まってますので、ご存じの方もおられると思います。対象は全国の大学付属病院(特定機能病院)、国立がんセンター、国立循環器病センターの計82病院の一般病棟への入院患者で、診断群分類によって決められた定額の入院料を支払う仕組みです。
 診断群分類とは、主傷病名、処置、合併症の3つの因子を組み合わせ新しい包括化診療報酬で、DPC(Diagnosis Procedure Combination)と呼ばれています。

 この制度は診療行為ごとに料金を計算する従来の「出来高払い方式」とは異なり、1日当たりの定額の点数「包括払い」という支払い方式になります。包括されるのは入院基本料のほか、検査、画像診断、投薬、注射、薬剤などの費用とされています。「入院後24時間以内の死亡患者、治験の対象患者、臓器移植患者、高度先進医療の対象患者、回復期リハビリテーション病棟入院料の算定対象患者、その他厚生労働大臣が定める者」は包括化の対象とはなっていません。

実際には特定機能病院の入院医療の診療報酬額は、
(1)診断群分類ごとの1日当たり点数
(2)医療機関別係数
(3)入院日数
の3要件による包括評価と、入院基本料等加算や指導管理などの出来高評価の組み合わせで行うことになります。
 平成15年4月からすでに導入されていますが、6月末までの猶予期間があり、4月実施が31病院で、7月以降は全部の特定機能病院に導入されるものと思います。
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○包括化の対象者

 どの患者さんがこの新しい算定方式の対象となるのかどうかは、DPCの区分表に従って主治医が判断しますので、しばらくは混乱があると思います。入院時に主治医が説明してくれると思います。
 前述しましたように包括されるのは入院基本料のほか、検査、画像診断、投薬、注射、薬剤などの費用で、手術、一部の処置(1000点以上の処置)・検査等は包括評価とは別に「出来高払い方式」により算定されます。また、包括評価の点数は、入院日数に応じて異なります。また病院毎に一定の係数(医療機関別係数)が定められており、同一の診断・治療でも入院する病院によって医療費の総額が異なる事があります。
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○診断群分類(1860分類)とはどんなものでしょうか

 診断群分類は各疾患別に、手術・合併症・処置などの有無で分類され1860種類という膨大な分類となりました。この膨大な分類を簡単にに説明するのはできません。
そこで脳梗塞の患者さんが入院したとして、説明します。

 脳梗塞では手術の有無・処置1・2、副傷病の有無などでJCS-30未満で13種類に分割され、JCS-30以上では4種に分類され、合計17種類に分類されています。主病名「脳梗塞」でもその17種類の内どれに当てはまるかで、入院期間(特定入院期間)がきめられ、その期間内の1日当たりの包括入院費が決められているのです。(表-1参照ください)
 JCSとは脳血管障害や頭部外傷の意識レベルの評価です。(*下記に解説)。

例えば脳梗塞で入院した場合、手術もなく合併症もなく、処置2(あり)の患者さんだとします。
 この患者さんが入院時に意識障害度は、JCS-20と判定されたとします。JCS-20 とは中等度の意識障害ですが体をゆさぶると開眼する状態です。これを診断群分類に当てはめれば区分67番となり、入院基本料は入院15日までは1日3,697点となり、16日を超えると1日2,732点、31日を超えると2,322点と漸減するように決められています。特定入院期間は64日ですので、それ以上の入院が必要になれば出来高に変更になります。
 一方、入院時に同じ中等度意識障害でも、JCS-30(痛み刺激を与えると辛うじて開眼する状態)と判断されれば、診断群分類は区分79となり、入院8日までは入院基本料は1日5,140点となり、8日を超えると1日4,194点、25日を超えると3,565点となります。特定入院期間は68日に延長されます。入院基本料も、入院日数も決められてしまいます。
分かり易くするため表にしてみますとこの様になります。
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傷病名 脳梗塞 手術なし、合併症なし、処置2(あり)
包括化入院基本料 (1日につき・1点=10円)  下記の表-1を参照下さい
  意識障害度(JCS-20) 67番
     入院15日まで  16日から30日  31日から64日
      3,697点   2,732点、     2,322点
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  意識障害度(JCS-30) 79番
     入院7日まで  8日から24日     25日から68日
      5,140点   4,194点、     3,565点
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 仮にJCS-20と30の意識状態の患者さんが同じ施設に14日間入院したとすれば、入院費だけで66番では51,758点、79番では65,338点となり、入院時の意識判定でJCS-30とすれば13,580点 約13万円の入院費の差が出てくるのです。
この場合30日までの入院となるともっと差が大きくなるようです。
67番なら15日まで3,697X15日=55,455、16日から30日まで2,732X15日=40,980 1ヶ月(30日)、合計96,435点。 
区分79番なら、7日まで5,140X7=35,980、8日から24日 4,194X18=75,492 25日後3,565X5=17,825 1ヶ月合計は129,234点となります。仮に1ヶ月入院なら両者では、32,799点、約33万円の差になります。
入院時の意識状態、それも主治医の判断で、こんなに入院の点数が違ってくるシステムなのです。
 そして脳梗塞だけで17種類にも区分されているのです。主治医は、その分類によって治療方針を変えるわけではないと思いますが、この事実を知れば判定に迷うような意識状態ならJCS-30を選択してしまうのではないでしょうか。また入院後短期間にこの分類通りに区分判定が出来るのかどうかは疑問です。

 脳梗塞の意識状態は急激に変わってくる場合もありますし、合併症もないと思っていても感染症や麻痺など一度決めた分類とは変わってくる事の方が多いのではないでしょうか。入院期間中の脳梗塞後の出血や、再発には、どう対応してゆくのでしょうか。出来高払い制度では、医療費の計算は全て医事課で行われていました。入院費は入院基本料のほか、検査、画像診断、投薬、注射、薬剤、手術、処置のほか食事にしろ全て医療や治療を行ったものだけ請求します。しかしこのシステムでは主病名以外の、手術や病状の重症度など主治医しかわからないことを基準に診断分類を行うわけですから、入院費を計算する医事課では判断のしようがないシステムでもあります。前述のJCS20と30の区別にしてもどの時期に判定するのか、手術の有無を問うならば分類は最後に行うのか。不明瞭なシステムです。
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 表-1 診断群分類 

番号
傷病名
手術
処置等1
処置等2
副傷病
重症度等
入院期間(日)

点数(点)

特定入院期間(日)

入院期間沒未満
入院期間沒以上日未満
入院期間日以上

65

脳梗塞(JCS30未満)

なし

なし
なし

7
14

4092

3101

2636

28
66

脳梗塞(JCS30未満)

なし

なし
あり

9
17

3965

2930

2491

32
67

脳梗塞(JCS30未満)

なし

あり
なし

16
31

3697

2732

2322

64
68

脳梗塞(JCS30未満)

なし

あり
あり

17
34

3639

2717

2309

66
69

脳梗塞(JCS30未満)

その他の手術あり  

なし
なし

12
26

3358

2576

2190

51
70

脳梗塞(JCS30未満)

その他の手術あり  

なし
あり

28
55

3440

2543

2162

105
71

脳梗塞(JCS30未満)

その他の手術あり  

あり

41
82

3240

2405

2044

169
72

脳梗塞(JCS30未満)

脳血管内手術等

24
47

4241

3135

2665

103
73

脳梗塞(JCS30未満)

動脈血栓内膜摘出術  

なし
なし

14
27

3786

2799

2379

49
74

脳梗塞(JCS30未満)

動脈血栓内膜摘出術  

なし
あり

17
33

3605

2665

2265

64
75

脳梗塞(JCS30未満)

動脈血栓内膜摘出術  

あり

19
37

3904

2885

2452

78
76

脳梗塞(JCS30未満)

動脈形成術、吻合術 頭蓋内動脈  

21
42

3490

2601

2211

82
77

脳梗塞(JCS30未満)

経皮的脳血管形成術

11
21

3919

2897

2462

42
78

脳梗塞(JCS30以上)

なし

なし

4
16

4329

3624

3080

40
79

脳梗塞(JCS30以上)

なし

あり
なし

8
25

5140

4194

3565

68
80

脳梗塞(JCS30以上)

なし

あり
あり

6
39

4622

3928

3339

110
81

脳梗塞(JCS30以上)

特定の手術あり

20
54

4648

3703

3148

130
  資料 特定機能病院等における包括評価(DPC)の資料集 「診断群分類点数表0325.xls」より

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○DPCの問題

 今回取り入れられた包括制度はDPCにより各区分ごとの1日あたり点数に医療機関別係数と在院日数とをかけて算出されます。これは米国のDRG/PPSが1入院単位で支払金額を決めているのとは異なります。どちらが良いとは言えませんが、入院期間が長くなれば入院費は逓減されますので、出来るだけ入院期間を短縮させたいという制度です。
 またDRG/PPSが入院日数も病院の評価も関係なく、支払い額は一定なのに対し、今回の包括評価は、入院日数が関係し、しかも出来高部分を残していることだと言えます。「包括と出来高を「評価」して合算したのが、今回の制度である。」とも言えますが、それによって分類が複雑になりすぎるのではないでしょうか。

 DPCの診断群分類は1860分類に区分わけされましたが、これだけ複雑な分類では、どの区分の診療報酬を選択するのか、主治医の判断も大変ですし、病名の不明な状態での入院はどんな判断になるのか混乱しそうです。
また今回の包括化かは特定機能病院が対象となりました。特定機能病院とは下記の説明のようにほとんどが大学付属病院です。大学付属病院も、医療費削減の標的になり、今後国の補助も減り独立採算の導入も考えられています。大学も収支を考えた経営が求められるようになったと言えます。しかし医師を養成する教育機関としての大学付属病院の包括化には、内部からも批判の声も挙がっています。
 包括化により営利追求の経営優先の診療と、医師の養成機関として医学教育目的の診療は相容れないのではないでしょうか。
 現実に、この包括化制度のために、ある大学病院では医療費の削減をさせないため、入院で包括化される検査は入院前に外来で検査を行ったり、高額な検査は行わないようにしてマイナスをカバーしていることもあると聞きます。また治療薬は包括されましたが手術は出来高のための治療法の選択にも包括化が影響を与えています。

 例えば心筋梗塞の冠動脈造影後の血栓溶解剤は検査・治療薬として包括されますが、ステントを使った冠動脈拡張術は手術として出来高で別に加算されますので、血栓溶解療法が減り、ステント留置の選択が増えたと言われます。
包括化によって治療が誘導される事もあるのです。また治療薬剤についても薬剤の包括化のため、ジェネリックの使用も考えられていると聞きます。勿論大学病院でジェネリック使用しても何ら問題はありませんが、営利・経営面から、今まで行ってこなかった方法をとることには医療人として抵抗はないのでしょうか。しかし多くの国立大学も経営を無視した運営は出来なくなっていると言うことです。
 このDPCが特定機能病院で成功すれば、一般の病院にも導入されることは明かですが、まだ急性期の包括医療の問題はおおく、注意深く見守る必要があります。 また、すでに長期入院の療養型病床では、入院費の包括化はすでに行われていますし、老人の外来診療でも行われていました。しかしこれによって医療費の削減が困難と判断した厚労省は、現場の混乱は無視してあっさりと老人外来の包括化は廃止してしまいました。この様に包括化は慢性の老人医療や長期入院でも多くの問題のある制度ですので、急性期のそれも特定機能病院での包括化の導入は、時期尚早ではないかと思います。今回は病院間の医療費収入の急激な変化を避けるために医療機関別係数などという指数も使われています。これにより前年度並みの収入は確保されるわけだと思います。しかし、特定機能病院での医療費の伸びが押さえられないと判断されれば、国はいつでもこの係数を排除したり変更出来るのです。今までの包括化と同じで、最初優遇し制度が落ち着いたら、はしごを外すのです。

 まだ詳しいことは判りませんし、説明を聞いたわけではないので著者の認識違いの事もあるかもしれませんが、ご容赦下さい。この制度については、また全体が解りましたらお伝えします。
                平成15年6月10日  13日 JCSの区分間違いあり一部修正しました。
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言葉の説明

○医療機関別係数とは
 医療機関別係数は、機能評価係数と調整係数からなります。
 機能評価係数は、文字通り医療機関の機能を評価したもので、入院時医学管理加算、紹介外来加算、診療録管理体制加算などが対象になります。
 一方調整係数は、医療機関の前年度実績を担保するためのもので、断群分類による包括評価に係わる医療費が、平成14年7月〜10月の医療費の実績に等しくなるように、各医療機関ごとに設定されます。

○特定機能病院とは
 高度先端医療を担う病院で全国80の大学付属病院のほか、国立がんセンター(東京都)と国立循環器病センター(大阪府)が計82施設が厚生労働省から指定されています。 東京女子医大は現在取り消されています。
 指定要件としては
 (1)500床以上の病床
 (2)10以上の診療科
 (3)患者紹介率が30%以上―などがあります。

○JCS:Japan Coma Scale  
 意識障害を表す評価法です。
 意識そのものを測定する客観的な指標はないため、救急の現場では患者の意識レベルや、その変動を観察してゆくことが重要で簡便な評価が求められ、日本では主にJCS(Japan Coma Scale)が使われていますが、欧米で一般的なGCS(Glasgow Coma Scale)が使われる場合もあります。
 刺激をしなくても覚醒している状態:軽度意識障害
  JCS-1 意識清明とは言えない状態
  JCS-2 現在の場所、日時などを思い出せない状態
  JCS-3 自分の名前、生年月日を思い出せない状態
 刺激すると覚醒する状態:中等度意識障害
  JCS-10 呼びかけに反応して開眼する状態
  JCS-20 体をゆさぶると開眼する状態
  JCS-30  痛み刺激を与えると辛うじて開眼する状態
 刺激をしても覚醒しない状態:高度意識障害
  JCS-100 痛み刺激を与えると払いのける動作をする
  JCS-200 痛み刺激を与えると顔をしかめる
  JCS-300 痛み刺激に全く反応しない
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参考サイト
特定機能病院の入院医療の包括評価について

大学病院の入院医療の包括評価について

特定機能病院等における包括評価(DPC)の資料集
 「診断群分類点数表0325.xls」
 「特定機能病院等における包括評価説明会」の資料など

club C@reNet

全日本病院協会


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