いよいよ介護認定が始まります
コンピューターの一次判定は果たして大丈夫なのでしょうか


 いよいよ、10月から本番に備えての介護認定制度がはじまります。我々医師会員も毎週のように介護保険関連の説明会・講習会などもあり、認定審査員や介護支援専門員には都道府県の研修会や実習などが行われております。マスコミでも毎日のように介護保険が取り上げられています。

介護認定審査会では公平・公正な審査を行うよう、これからも研修が行われます。ますます忙しくなりそうです。しかし、まだ少し私は認定審査制度に不安を持っています。

 先日、全国医療情報システム連絡協議会で日医総研(日本医師会総合政策研究機構)の主任研究員 川越雅弘氏の講演を聴く機会がありました。
そのお話を聞き、やはり要介護度のコンピューターによる一次判定は根本的に大きな問題が解決できていないのに見切り発車されたものであり、現場では当然混乱が起こるものと予想されます。
その講演の要旨を、日医総研の許可を得て掲載します。
一部説明は話し言葉に代えています。

タイトルは「厚生省一次判定のロジックの過去・現在」でした。

 介護保険制度下で、サービスを受けるためには、「要介護認定」という手順を踏まなければなりません。その判定結果により、要介護度に応じて給付限度額が決定されることから、要介護認定は介護保険制度の要といえます。 要介護認定は、コンピュータが行う一次判定と、介護認定審査会が行う二次判定から構成されます。このうちコンピューターによる一次判定は、二次判定を行う際の基本資料となることから、非常に重要な役割を担っています。

 厚生省は、要介護認定方法や基準を確立するため、平成8年度から3年間、要介護認定に関するモデル事業を実施し、一次判定ロジックの開発を行ってきました。 そして昨年の全国のモデル事業として行った一次判定では多くの疑問と問題点が浮かび上がりました。

一次判定ロジックに関する基礎的研究

 1)一次判定方法とは
 現在の一次判定は、各高齢者の属性に基づく理論的ケア時間を、実際に施設で提供されていたケア時間をもとに作成された統計モデル(樹形モデル)を使って推計し、それを認定基準時間と比較する形で行われています。

 2)一次判定ロジック関発の変遷
 (1)調査対象者、対象施設
 統計モデルを構築するため、厚生省は、平成5年度に特養・在宅高齢者を対象に、平成6年度に特養15施設、老健17施設、介護力強化病院19施設の入院・入所者3,403名を対象に調査を実施しました。ただし、平成8年度以降の統計モデル作成に使用されている基礎データは、平成6年度に特養、老健、介護力強化病院の人院・入所者3,403例に対して測定された施設データのみで、平成5年度に測定された在宅高齢者のデータは採用されていません。

厚生省一次判定ロジツクの問題点

(1)施般ケアと在宅ケアの整合性の問題
 厚生省の樹形モデルは、施設データのみに基づいて構築されており、在宅ケアと整合性のとれない部分が反映できていません。また、施設ケアと在宅ケアの、ケア時間からみた整合性の検証もおこなわれていないため、在宅の高齢者への適応妥当性に問題があります。

(2)樹形モデル構築上の問題
 モデルの作成が統計的手法に終始し、介護現場の専門的な意見は全く反映されていません。通常、臨床現場に、樹形モデルを応用する際、臨床的観点からの検証を行う必要があります。つまり、統計学的な妥当性を維持しつつ、さらに臨床的な理解や枠組みと一致するかどうかが重要になるのです。

(3)自立・要支接の区別の問題
 樹形モデルを9つにわけたため、全項目に問題がない場合でも、合計ケア時間は20分程度となってしまいます。要支援の定義は25分以上30分未満であり、時間による区別が非常に驚しくなっています。そのため、厚生省は、チェック項目が3項目以下の場合、要支援でも自立と判定する方法を採っています。

(4)調査項目区分の定義の問題
 樹形モデルでは、高齢者の属性に関する73の調査項目とその区分等に基づいて、グループ分けが行われています。その際、区分けが暖昧なために、割り当てられるケア時間が変わる可能性があります。たとえば、「浴槽の出入り」を考えてみる。「浴槽の出入り」は、“自立”、“一部介助”、“全介助”、“行っていない”の4つに区分されています。ここで、“行っていない“の定義をみると、”重度で行えない“から、”風呂嫌いや習慣等で行わない”までが含まれている。すなわち、同じ“行っていない”の中に、自立に等しい人から重度でできない人までが含まれている訳です。

(5)基礎データ収集時の問題
 今回の1分間タイムスタデイは2日間にわたって実施され、2日間に実施されたケア時間の平均値をコード別ケア時間としています。各ケア領域におけるグループ別割り当て平均ケア時間の範囲を示すと、待に入浴の時間が短いことがわかります。

 これは、2日間のうち、入浴を行っていない人もケア時間0分として、平均値を算出する際に対象者としているためです。機能訓練についても、同様です。サービスが提供されていない人も、ケアが必要なかった人も同じ扱いをしており、結果的に平均ケア時間が短くなってしまっています。

今後の課題
 要介護認定は、コンピュータの一次判定と二次判定で構成されており、両者で補完しながら、公平・公正な判定が行われる必要がある。前述したように、厚生省の一次判定ロジックには多くの問題点があります。問題点の中には、基礎データの信頼性に係わる根本的な問題も含んでおり、現在の基礎データに基づいたロジックの推定には限界があります。一次判定の推定精度が検証されるまで、当面、状態像に基づく二次判定を重視した要介護認定の仕組みを構築する必要があります。

 今後、一次判定ロジックの推定精度を高めるため、特に在宅の高齢者に対するタイムスタディ調査を行い、施設ケアと在宅ケアで整合性のあるロジックの構築を図る必要があると考えます。

以上が講演の要旨でした。


 結局、10年度のモデル事業で行った一次判定と比べて、推定介護時間の配分や見直しは行われていますが本質的な部分は何も変わっていないことになります。10年度のモデル事業と同じ対象者を11年度の判定基準で判定した結果、要介護4-5が少し増えたとの事でしたが、一方では要介護3が要支援にランクダウンした例などもありやはり混乱は避けられないと思います。
 またこの一次判定では自立と要支援は判定不能とも聞きました。講演を聴いて、果たしてこれで本番は大丈夫だろうかと疑問を持ちました。
 基礎データの信頼性がないものをいくらいじくっても、所詮小手先だけの急場しのぎとなりますし、これでスタートしたとしたら、途中で調べ直すことなど出来るのでしょうか。
 3年もかけて出来なかった調査を施行後に再調査など出来ないと思います。

 せめて「状態像に基づく二次判定を重視した要介護認定の仕組みを構築する必要があります。」と言う結論が有効に行われるように、認定審査会の二次判定を見守りたいと思います。

                 平成11年 8月4日  玖珂中央病院 吉岡春紀



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