血液透析における低分子ヘパリンの止血時間に関する検討

      第9回中国腎不全研究会・第16回中国CAPD研究会(2000.9.24 広島)

         桐林 慶、高杉敬久(博愛病院)
         小宮 裕、頼岡徳在(広島大学第二内科) 
 

・はじめに
1976年にAnderssonら1)が低分子分画のヘパリン(以下LMWH)を発見して以来、分子量の違いによるヘパリンの凝固因子阻害活性の差異が注目され、出血性を助長せず血液凝固抑制をはかるための手段が模索されてきた。現在我が国では血液透析における抗凝固薬として数種のLMWHが使用されているが、今回我々はダルテパリンNa(商品名;フラグミン)とレビパリンNa(商品名;ローモリン)使用時におけるシャント穿刺部位の止血時間について比較検討したので報告する。

・対象および方法
対象は、当院で週3回の比較的安定した血液透析を行っている患者のうち、抗凝固薬としてダルテパリンNaを使用しているにも関らずシャント穿刺部位の止血に約10分ないしそれ以上を要する慢性腎不全患者8名である。対象の性別、年齢、原疾患、透析期間、透析時間、blood accessについて表1に示した。
方法として、ダルテパリンNaとレビパリンNaをそれぞれ同量(初回投与500u、持続投与500u/hr)使用した時の穿刺部位の止血時間を測定した。なお止血時間は、透析終了後の抜針時を開始点として、約1分間隔で指圧を緩めて止血状態を確認し、完全に止血された時を終了点として計測した(連続した3回の血液透析において計測)。また、透析開始直前と開始1時間後におけるPT、APTT、抗第Xa因子(以下a−Xa)活性を測定し、それぞれの値と変化率およびAPTT/a−Xa活性比について検討した。

・結果
ダルテパリンNa使用時の止血時間は動脈側、静脈側でそれぞれ9.8±4.5分、11.0±5.5分(mean±SD)であったのに対して、レビパリンNaでは8.2±3.6分、7.0±3.4分と、レビパリンNaにおいて有意に短時間での止血が得られた(動脈側p<0.05、静脈側p<0.005)(図1)。

また、PT活性値、APTT値および、透析開始前と1時間後のPT活性値、APTT値の変化率については、二剤の間に統計学的な有意差は認められなかった。a−Xa活性値については、透析直前値は全例測定感度以下(<0.40 IU/ml)であり、透析開始1時間後ではダルテパリンNaで0.18±0.03IU/ml、レビパリンNaで0.21±0.03IU/mlと後者が有意に高値であった(p<0.01)。また、透析開始1時間後におけるAPTT/a−Xa活性比は、ダルテパリンNaで231.9±47.1、レビパリンNaで201.5±35.2と後者が低値である傾向が認められた(p<0.07)(図2)。

・考案
血液透析という反復かつ終身的治療においては、穿刺時のシャント部痛、長時間の臥位保持もさることながら、抜針後の圧迫止血に要する時間の遷延は、患者の精神的肉体的苦痛の原因となり得る。また、消化管出血、眼底出血などを合併する血液透析患者に対する抗凝固薬の選択は、その特性をもって慎重に行わなくてはならない。
今回我々は、異なる分子量分布を持つ二種のLMWHについて検討を行い既述の結果を得たが、これには両者の凝固因子阻害活性の差異が関与していると思われた。両者とも未分画ヘパリンに比べて抗Xa活性/抗Xa活性比が高いが、レビパリンNaにおいてこの値がより高く、APTT延長作用が弱いとされている2)。これは、ダルテパリンNaの平均相対分子量が約5,000、レビパリンNaのそれが3,500〜4,500と、同じLMWHでありながらも分子量分布が微妙に異なっていることによる3)。
ヘパリンは単独では抗凝固作用を持たず、血漿中のATIIIと結合することによってその作用を発揮し、第IIa因子、第XIIa因子、第XIa因子、第Xa因子、第IXa因子などの凝固系酵素を阻害、不活化する。このうち分子量5,000以下のヘパリン分画は抗第XIIa、抗第Xa因子活性を持つものの、第IIa因子、第XIa因子、第IXa因子に対する阻害活性は軽微であることが明らかにされている4)5)。
今回我々が検討したダルテパリンNaとレビパリンNaについては、第IIa因子への阻害作用が弱く、第Xa因子を阻害する特性においてより優れた後者が血液透析における止血時間短縮に適した抗凝固薬であることが示唆された。

文献
1)Andersson LO, Barrowcliffe TW, et al: Anticoagulant properties of heparin fractionated by affinity chromatography on matrix bound antithrombin III and by gel filtration. Thromb. Res. 9;575-683, 1976.

2)太田和夫、左中孜ほか:血液透析時体外循環における低分子ヘパリン:KM-311(一般名;レビパリンナトリウム)の抗凝固薬としての臨床的検討. 臨床医薬 13;1941-1959, 1997.

3)太田和夫、左中孜ほか:出血性病変を有する透析患者の血液透析時体外循環における抗凝固薬としての低分子ヘパリン:KM-311の臨床評価. 臨床医薬 13;2619-2645, 1997.

4)Farred J, Walenga JM, et al: Comparative study on the in vitro and in vivo activities of seven low molecular weight heparins. Hemostasis18;3-15, 1988.

5)Holmer E, Kurachi K, et al: The molecular-weight dependence of the rate-enhancing effect of heparin on the inhibition of thrombin, Factor Xa, FactorIXa, FactorXIa, Factor XIIa and kallikrein by antithrombin. Biochem.J.193;395-400,1981.

 

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