ロメナス奪還作戦

1

はつみ、アリシア、ステファンと村の女性達は広間で宴の余興をするよう命じられていたが今ではただボーッと時間が過ぎるのを待つだけだった。結局はナブの一言「一体その踊りの何が面白いのか解らない」で彼女等は踊るのを止めて現在に至る。

「(そろそろ時間だ)」

ステファンが小声ではつみとアリシアに言う。

ロメナスの村襲撃の時刻まであと少しという時、広間の扉が開き数体のオークが入ってきた。探索に出掛けていたズークとその部下だった。

「ナブ様、今すぐ黒魔法の覚えのある奴等を聖堂へ遣してください!」

「どうしたズーク?見つけたのか?」

「聖堂に結界が貼ってありました。おそらく中に何があるのかを隠蔽する為の結界です。だから俺達オークにも村人達にも解らなかった。結界を解いて初めて何があるのかが解る仕組みなのです!時間稼ぎという奴ですよ」

「人間どもめ姑息なマネを!」

ナブが怒声を周囲に浴びせた。

ズークは余興をする為に呼ばれていた人間達をまじまじと見つめる。

「ナブ様、何故ここに人間を呼んでいるのです?」

「奴等を躍らせて余興としようと思ったのだがアンマリ詰まんないので見世物にしてるだけだ」

ズークはそこにいる人間達の顔を一つ一つ見ている。

「(こいつ…人間の顔が見分けられるのか?!)」

ステファンは小声で驚いていた。人間はそもそもオークの顔の違いを殆ど見分けることが出来ない為、彼等がオスなのかメスなのかも解らない。ナブのような眼帯をしているオークなどは特徴があるので見分ける事がたまたま出来ているだけで本来は全て同じ顔に見えるのだ。だから人間達の間ではオークも人間の顔を見分ける事が出来ない、と思われていた。

だがズークと呼ばれるオークは人間一つ一つの顔をまるで自分の記憶と照らし合わせるかのように確認している。そして一人の人間をジッと見つめた。まるで記憶と一致したかのようだ。

「ナブ様…なぜこの女がここに…!」

「ん?その村人がどうかしたのか?」

「(いくら物忘れが酷いアンタでもこれだけは覚えてると思ったが…やっぱりか!)」

ズークは小声でナブに聞こえないようにツッこむと今度は大声で聞こえるように叫んだ。

「ナブ様の片目を奪った女ですよ!」

ズークの指差す先にはアリシアがいた。

バレたか、というより先にアリシアは口を開くか開かないか解らないぐらいに動かしている。目を薄く閉じ既に召喚魔法の詠唱を始めている。

ナブは怒声を浴びせるよりも先に身体が動いた。今度はステファンの時とは違い確実にアリシアの額を目掛けて投げ斧を飛ばす。ステファンもナブのその行動に気付き懐に忍ばせていたナイフに手を掛けたが既に間に合わない。

次の瞬間、床を突き破り土砂がまるで壁を作るように浮き上がった。その土砂がナブの投げ斧を受け止め、飲み込んだ。次第に巨大な人の形を造り腕を大きく広げた。

ゴーレムだ。

「ちょっと早いがショータイムだ!」

ステファンはカツラを取りドレスを脱ぎ捨てると懐のナイフを構えて隣にいるオークの首を欠き切った。オークが断末魔を上げ倒れると持っていた盾と小剣を取り上げた。

「はつみ、あんたも何か召喚して大暴れさせてくれ!」

はつみは頷くと指で印を結んだ。

地面が裂けて巨大な熊が姿を現した。ツキノワグマとも思える胸の模様は東洋の古代文字の形を取っている。熊は呼び出された瞬間、目の前にいたオークの顔に平手打ちをした。1回転して倒れるオーク。

「殺せ!殺せーッ!」

ナブが怒声を浴びせる中、オーク達の攻撃は召喚獣や式神には一切通用していなかった。斧をゴーレムに叩き込むも火花が散って歯が欠けた。はつみの呼び出した熊は攻撃のリーチが広すぎて間合いにさえ入れない。勇んで飛び込めば鋭い爪に引っ掛かれてのたうち回る事になった。

「ナブ様!術者を、術者を狙ってください!術者が死ねば召喚獣は消える!」

ズークが叫ぶ。それに反応してアリシアはズークを睨む。

「チッ!」ズークは舌打ちをしてアリシアの詠唱と同時に詠唱をする。炎の柱がズークの目の前に吹き出て倒れ掛かる。間一髪で彼の詠唱も終わり風が渦を巻いて炎の柱を飲み込んだ。

「ここはナブ様に任せて俺達は聖堂へ行くぞ!」

ズークは隣にいた魔道士に叫ぶと彼自身は呪文を詠唱した。衝撃波が広間の壁を突き破り外への退路を作った。そして彼の部下の魔道士を引き連れて聖堂へと向かった。

「あんた達は約束の場所まで逃げろ!いいか?後ろを見ずに逃げ切るんだ!」

広間の入り口を確保したステファンは村人の女性達をそこから逃がす。

「はつみ、奴等の注意を引き付けながら逃げるぞ!」

はつみは頷くと彼女の式神の熊もオーク達の攻撃を防ぎながら共に入り口へ後ずさる。

「アリシアさんが!」

はつみが叫んだ。アリシアは広場の奥でゴーレムと共にオーク達と交戦していた。

「こんな木偶の坊がこのナブに通用するとでも思ったか!」

ナブがそう叫ぶと彼の言う木偶の坊、ゴーレムに体当たりを食らわせた。ゴーレムも巨大だがナブも負けずと大きい。そのナブの特殊な体当たりはゴーレムに当たる数センチ手前で止まったが衝撃波が窓ガラスを吹き飛ばしアリシアも巻き込まれた。その瞬間ゴーレムは粉々に砕け散った。アリシアは耳から血を流している。鼓膜が破裂したのだ。

「今度こそ殺してやる!」

ナブがそう叫ぶと同時にアリシアも小さく呪文を詠唱している。巨大な炎の弾が地を滑るようにナブ目掛けて飛んだ。ナブは目を見開き「カッッ!」と叫ぶと炎の弾がナブの目の前で爆発した。ただし爆風はナブに向かずアリシアの方向に跳ね返った。

「アリシアさん!」

はつみが叫ぶ。

既に炎に包まれた部屋ではアリシアの姿は見えない。

「はつみ、早く脱出しよう!僕らも逃げ遅れたら死ぬぞ」

はつみとステファンは村人達の後を追うように部屋を出た。

一方、爆風で姿を隠すことが出来たアリシアは無事に逃げ出して聖堂の近くの広場に居た。火傷と聞こえなくなっていた耳を魔法で治療し静かに目を閉じて地面に手を翳す。

「聖獣サラマンダーよ、その聖なる炎で邪悪なる獣達を灰へと還せ…」

詠唱が終わると魔法陣が現れ光輝いた。光の粒子が馬ほどの大きさもあるオオトカゲを造り、輝きが消えるとサラマンダーと呼ばれる召喚獣が姿を現した。

2

聖堂ではズークとその部下の魔道師達が結界を解く呪文を詠唱中だった。

ズークは結界の様子を暫く見ていたがふと何かに気付いたように背後の聖堂入り口を振り返った。そこには炎を背にした少女が居た。アリシアだ。アリシアは召喚したサラマンダーを背に聖堂へと足を踏み入れた。

「(おい、ナブ様を呼んでこい、急げ)」

ズークが小声で部下の一人にそう言うと部下のオークは聖堂の影に消えた。

「貴様も秘宝を狙っているとはな…」

「あれは秘宝ではないわ。貴方達が持っていても意味を持たない物よ」

「意味を持たないだと?では人間達が持てば意味があるとでも?」

「人間達が持っても意味を持たないわ」

「どういう事だ?じゃあ何故オマエは秘宝を追う?」

「意味を持たない物はその存在を消してしまうべきよ」

「オマエは秘宝の力が何なのか知っているのか?」

「…」

アリシアは質問に答える代わりに詠唱を始めた。

「クソッ!」

炎の玉がズークへ向かって発射される。初撃はズークの詠唱も間に合わず彼の左足をかすり大火傷を負わせた。彼が体制を整えるよりも早く2撃、3撃と炎の玉を次々に生み出しては発射するアリシア。

ズークは風の魔法を詠唱しては炎を回避したが彼の背後にはサラマンダーが迫っていた。それに気付いた部下のオーク達は結界解除の詠唱を止めて彼の支援に向かおうとしていた。

「なんとしても秘宝を手に入れるのだ!俺の事は放っておけ!」ズークは叫ぶ。

「そういうワケにもいかないのよね。サラマンダー!火祭りにしてしまいなさい!」

アリシアがそう叫ぶと召喚獣は詠唱中のオークに噛み付いた。

炎の柱と共に塵になるオーク。

「ガァァァァ!」他のオークも戦闘前の雄叫びを上げる。詠唱などをしている場合ではないとズークの命令を無視して武器を取り出してサラマンダーへ斬りかかる。だが炎の柱がそれを跳ね除けた。

「こいつは炎に守られているから武器は効かない!俺が炎を吹き飛ばすからそのタイミングで斬りかかれ!」

ズークが部下へ叫ぶ。

そしてズークの周りにはマナの粒子が集まり渦を巻き始めた。詠唱が通常の呪文よりも長く、それがハイレベルな黒魔法である事がわかる。マナの粒子はしだいに薄くなり代わりに巨大な竜巻が現れた。

アリシアは短い詠唱の呪文を唱えようとする。ズークの詠唱が完全に終わる前に中断させなければならない。だがその望みを裏切るように衝撃波が聖堂の壁を破壊しアリシアに襲い掛かった。受身を取るも石塊が彼女の脇腹を直撃して吹き飛ばした。

衝撃波の主がその巨体を覗かせる。ナブだ。

「クソ女が!今度こそ貴様を殺し、目玉をくり貫いて卵焼きにしてやる!」

アリシアは傷つき血を滲ませた脇腹を押さえながらゆっくりと立ち上がった。

「目玉をくり貫いて焼いても目玉焼きにならないし、むしろ卵焼きになんか絶対にならないわよ。このウスラボケ…」

アリシアは苦しそうに言い放った。だがズークの詠唱を中断させる事が出来なかった為、巨大な竜巻が部屋を覆いつくしてアリシアとナブの姿は竜巻の中で消えた。同時にサラマンダーを覆っていた炎の壁も消え去り、オークの戦闘斧の餌食となった。

竜巻が消え始める頃に再び結界解除の詠唱を始めるオーク達、そしてズークはアリシアの姿を確認しようと目を凝らして消えかかった嵐の中を探した。彼がそこで見たものはまたもや詠唱をしているアリシアの姿だ。彼女は全ての隙を詠唱に費やしていた。

「ナブ様!また召喚しようとしています、気をつけて!」

アリシアの前にまたもや床を突き破り土砂が現れた。だが今度は土砂を突き破ってナブの巨大な腕が現れ、アリシアの胴を片手で掴みそのまま自分の元へと引っ張り寄せる。アリシアは自分が召喚した土砂を全身に浴びた後、ナブの前に高々と持ち上がられた。詠唱を中断させられた為、土砂は人の形を作る前にただの土塊に戻った。

そしてナブは彼女の細い胴を折れんばかりに握り潰そうとする。

「これで終わりだな小さき召喚士よ。このナブは貴様の言うように教養は無いがそれ以上に慈悲も無いぞ。このまま身体を真っ二つにしてやろう!」

「うぐ…ああああっぁぁぁ!」

アリシアが痛みに叫ぶ。だがその叫びも小さく聞こえなくなる。詠唱が唱えられないように更に力を込めるナブ。背骨が軋む音が響いた。

「結界が解けました!」ズークの部下が叫ぶ。

彼らの前には元々何も無かったが結界解除と共に小さな宝箱が姿を現した。アリシアやズークが探していた秘宝だ。

「切り札は…」アリシアが小さく唸る様に言う。

「なんだ?」ナブが聞き返す。

「切り札は最後に取っておくものよね、そうでしょう?」

そう言い終わるとアリシアは笑みを浮かべた。

そのやり取りを見ていたズークは彼の部下に叫ぶ。

「気をつけろ!」

結界の周りの聖堂の壁が人の形に変化するとストーンゴーレムへと姿を変えた。ズークや彼の部下が気付いたときには既に遅く、ゴーレムは宝箱を叩き潰していた。

「クソッ!この女、別のゴーレムを外で待機させてやがったのかッ!」

ゴーレムが腕を旋回させ周りのオーク達を払い飛ばした。

「アリシアさん!」

アリシアの遠のく意識の中で声が聞こえた。はつみの声だ。ナブが突き破った聖堂の壁の穴から大きな山犬に乗ったはつみと彼女が口寄せした熊が現れた。

「熊吉!そのオークからアリシアさんを助けて!」

熊吉と呼ばれたツキノワグマの様な姿の熊はナブの前まで走ると仁王立ちになった。ナブは眉をしかめた。仁王立ちの熊吉はナブよりも一回り大きかったのだ。人質を助けるはずの熊吉だが一吠えして躊躇せずナブの顔目掛けて鋭利な爪での平手打ちをした。

不意を衝かれたナブはアリシアを手放して聖堂の木製の椅子に倒れこんだ。椅子は音を立てて木片を撒き散らしながら壊れる。

「ナブ様!作戦は失敗です…人間どもが村の防壁を突破したと知らせがありました!撤退しましょう!」ズークが叫ぶ。だがナブには声が届いていない様だった。

「作戦なんぞはどうでもよい!そこの2匹の召喚士を始末してから撤退だ!」

「(ったく頭に血が昇りきってやがるなボスは…)」ズークは小声で言う。

彼の言う2匹の召喚士をズークは探すが1匹…はつみしか居ない。だがアリシアは目的を達成したから既に撤退したのだろうと彼は冷静に判断した。

「俺達は逃げるぞ」ズークは彼の部下に言った。

これ以上の戦闘は無意味だと判断したのだ。

ナブは起き上がると仁王立ちの熊吉に掴みかかる。熊吉も負けずとナブの両肩を鋭利な爪付の手で掴む。両者は一歩も譲らず力比べをしている様だ。互角だったが次第に熊吉の肩の筋肉が大きくなっていく。

「ん…お?おおお!」

ナブの肩がミシミシと悲鳴を上げる。熊吉の肩や胸の筋肉が巨大になっているが、逆に腰から下の筋肉が少ない。体系が力を入れる場所に合わせてコントロールされているようだった。

「こんな木偶の坊なんぞ…」

ナブは一部のオークだけが使える戦闘力を大幅に上げるオーラを放出した。ナブの様に魔法を使わず体術で戦うオークはマナをオーラに変える技を扱える。ナブはそのオーラを溜め込む事で1回で放出可能なオーラの量をマナの量以上に使う事が出来るのだ。

オーラが大地を揺るがすような振動を帯びて聖堂を揺らした。オークの戦闘前の雄叫びの数倍大きな振動で、しかもそれがたった1匹のオークから放たれているものだ。はつみは間近でオーラを直に浴びて恐怖に震えた。

それまで互角だった熊吉との力比べもオーラを纏ったナブは見た目筋肉は無いにも関わらず熊吉を圧倒し始めた。そして一瞬の隙を突いて熊吉をなぎ倒した。

「熊吉!」

熊吉は倒れただけでそれほどダメージは無かったがナブの標的は熊吉からはつみへと変わっていた。ズークのアドバイスである術者を狙え、を正しく守っている様だ。

ナブは勝負を楽しむ事などはしない、はつみが恐怖に震える姿を楽しむわけでもない、恐怖を感じる暇さえ与えず投げ斧を確実に彼女の額目へ命中させる為、狙いを付けたのだ。躊躇いも無く投げ斧に手を掛ける。

(今度は本当に殺されてしまう!)

身構え目をつむるはつみ。

だが投げ斧は飛んでは来なかった。ゆっくりと目を開くとナブが手を押さえて呻る様子が見える。その手にははつみの見慣れたものが刺さっていた。手裏剣だ。邪馬の国の忍者と呼ばれる忍術を操るものが扱う武器だ。

ナブが手裏剣を投げた主を探すがそれを見つける前にバチバチと音を立てて発光した。手裏剣の金属を伝って強烈な電撃がナブの身体を襲ったのだ。

はつみとナブの前に音も立てずどこからか男が着地した。邪馬の国の戦闘着を纏ったその男は指で印を結ぶと小さく詠唱した。

「雷遁、閃光連弾」

男は拳大の光塊をナブ目掛けて次から次へと吹き付けた。確実には命中しないが電気を帯びているらしく、光塊はナブの近くに飛ぶと彼の手に刺さっている手裏剣に吸い取られるように電気を伝えて、完全に伝え切れると消えた。

「ぐぉあああああ!」

ナブが痛みに悶える。回避行動をとってもまるで追尾するように光塊はナブの身体目掛けて、しかも手に命中した手裏剣目掛けて電撃を放っている。

「ナブ。分が悪いぞ。2対1、しかも得体の知れない忍術と口寄せ術を相手に。おまけに貴様の仲間は既に逃げ出したぞ。まだ戦うつもりか?」

男はナブにトドメを刺す訳でもなく、「冷静になれ」と言わぬばかりに静かに言い放った。

「クソッ…そこの男、そして召喚士の女、次にあった時が最期だと思え」

ナブは捨て台詞を吐いて聖堂から撤退した。

「そっくりそのまま貴様に返すよ、そのセリフ」

男もナブの背中を目で追いながら言い放った。

3

「危ない所を助けていただき、有難うございました」

はつみは忍者の男に深く頭を下げて礼を言う。

「まぁ気にするな。出来る事をしただけさ」

男は軽く返事を返すと先ほどまで秘宝があった結界の場所の辺りを調べている。既にアリシアの召喚したストーンゴーレムの残骸が壊れた宝箱と一緒にあるだけだ。また宝箱には何も入っていないのか瓦礫と箱の破片が転がっている。

「あ、風雅(ふうが)さん!ここにいらっしゃいましたか。どうでしたか?ありました?」

聖堂の入り口から男が入ってきた。男は邪馬の国の僧侶の格好をしている。彼も忍者の格好の「風雅」と呼ばれた男の仲間なのであろう。そして風雅と呼ばれたその忍者は静かに首を横に振った。

「いえ…既に破壊されていました」

「…そうですか…一足遅かったですね」

そのやり取りを側で聞いていたはつみは質問する。

「結界で封印されていた秘宝、一体なんなのです?オーク達もこの秘宝が目当てでロメナスを襲ったみたいだったし」

「この世界を救うカギさ」風雅は答えた。

「風雅さん!」

側にいた僧侶風の男はその話に割って入った。

「豊吉さん、今回の戦闘で解ったと思いますけど俺達では数の限界が来ているですよ…。やはり仲間が必要です。確かに一般人を巻き込む事には抵抗はありますけどね」

「しかし…」

豊吉と呼ばれる僧侶の男は考え込んだ。

「失敗して自分等だけ犬死ならいいんですけどね…他にも多くの人が死ぬかも知れない。そう考えたら出来る事はしようって思うんです」

はつみは黙っていられず彼等の話に割り込む。

「世界を救うって、なんなんですか?何の話なんです?」

風雅は豊吉を見て彼の許可を伺う。豊吉は無言で頷いた。

「お嬢さん、名前は?」

「あ、すいません。申し遅れました。はつみと言います」

「俺は風雅、こちらの方は豊吉さん。多分、今何を話しても信じて貰えないだろうし理解も出来ないだろうから必要な事だけ話す。まず…俺達はこの世界の人間じゃない。他の世界からここへやってきたんだ。この世界の人々を守る為にね。その為にはまずオーク達の探していた秘宝を手に入れる必要がある」

「あの秘宝は、一体何なのです?」

「まだ正確な事は言えない…時期が着たら話すよ。あの秘宝は俺達の世界との連絡を取り合う事が出来るんだ」

別の世界…それははつみが求めていたものだった。彼女の始まったばかりの一人旅の理由は己の口寄せの術の修行そして、別の世界を探す事。召喚獣や口寄せの式神達がどこから来るのか、それらを自分の目で確めたいから始めた旅だ。それは当ても無い旅だと判りきっていたが風雅の話が彼女の旅の成功の可能性を大きく膨らませた。無駄な事は何一つ無かったのだ。

(私も、もう一つの世界を見てみたい。世界を救うって何なのか解らないけど、この人達と一緒なら世界の真理が解りそうな気がする…)

「世界を救う事が何なのか解りません…だけど、私はこの世の真理を探して旅をしていました。風雅さんの言うもう一つの世界…ちょっと信じられないけど、見つけ出してみたい気がします。もし宜しければ旅のお供、させて頂いていいですか?」

「勿論いいさ、と言いたい所だが一つだけ忠告はしておく。旅の途中で何かがあった時、あんたを見捨てて逃げたりはしない、出来る限りの努力はするつもりだけど危険では無いとは言い切れない。それでも良ければ」

「今まで一人で旅をしてきたから、危険は覚悟の上です。よろしくお願いします!」

「よろしく」

風雅は手を差し出してはつみと握手を交わした。同じく豊吉も「よろしくお願いします」と言って握手を交わす。かくしてはつみと風雅、豊吉の3人の旅が始まった。

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