1
ロイドは一人、装飾の施された椅子に座り葉巻きを吹かしていた。
断崖に作られた屋敷は日中も光は差し込まず薄暗い部屋には暖炉の炎が唯一の光源になっている。その葉巻をまだ半分吸い終わらないうちに灰皿に捨てる。外から屋敷へ向かう複数の足跡が聞こえたのだ。客人が来る。
「ロイド、オーク達が来てるわ。話がしたいそうよ」
部屋に入ってきたのはマハだった。それに続いて強引に部屋に入ってきたのはオーク達だ。意外にも屋敷は断崖に建てられてる割には頑丈で複数のオークが屋敷に上がりこんできても少しだけ屋敷全体が揺れただけで崖まで真っ逆さまに転落する事は無かった。
屋敷にやってきたオークは全部で5匹。そのうち1匹は身体に豪華な装飾品をつけている。それはオーク達の間でも地位が高い事を意味している、のだろうか。だが周りのオークに比べれば一回り小柄(だが人間よりは大きい)なそのオークはロイドの前まで歩み出るとソファーに深く腰を下ろした。
その顔には深い傷があり、オークの人相を普段より一層悪くしている。
「まぁ、1本やってくれ」
ロイドはオークに葉巻を差し出す。そのオークは無言で葉巻を受け取ると側に置いてあったマッチで火を付けた。そして深く吸い込むと一気に煙を吐き出した。
「今日はちと込み入った話があってな…」
そのオークは話し出す。
「俺達オークとアンタ等盗賊団とは人間とオークという種の違いを超えてこれまで色々と悪事を働いてきた。時には俺達が陽動となってアンタ等が御宝を強奪したり、そして時にはアンタ等が人間達に嘘を吹き込んで混乱させて俺達が御宝を強奪したりした。お互いに協力しあって来たワケだ」
「あぁ、そうだな」
「今回の話は御宝に関する事じゃあない…俺達オークにも色々と事情ってのがあってな…。知っての通り、オークは今大規模な軍隊を編成しつつある。俺はな、それとは無関係だと踏んでたんだよ。これまで通り、平凡と御宝を盗む日々を送っていけると思ってたんだがなぁ…」
「お前等も戦争に駆り出されるって事か?」
「まぁそういう事だ。それに近い。お上からの命令でこの地域にオークの戦略拠点を作る事になっている。オスナサイルの特殊な地形はオークにとっても人間にとっても侵略しにくい。自然の要塞って奴さ」
「っておいおい…俺達のこのアジトを、お前らのアジトだってそうさ、ゴキブリみたいに隙間に家造って暮らしてんだろ?一体何処にそんな拠点を造れるような場所があるんだよ?」
「それがあるのさ、あっちまったんだよ。残念な事になぁ…ここの先に村があるだろ?お上はあの村の人間を追い出してアソコに戦略拠点を造るつもりなのさ」
「あの村を…襲うのか?!」
「襲うのは俺達じゃあない。クロイツって下衆な将軍が率いている1個大隊だ。奴の下衆っぷりはハンパじゃねぇ。多分村人は全員処刑されるだろうな。奴はオークの皮を被った化け物さ」
「…」
「俺とお前、人間とオーク、お手手繋がないにしても色々とやってきた義理もある。俺は仁義を大切にするオークだ。だから今回お前さんに会いに来たのは、この話を伝えに来たのさ。『あの村から人間どもを他の場所へ移動させて欲しい』ってのが今回の依頼さ」
そこまで話すとオークはまた葉巻きを深く吸い込んで煙を吐き出した。同じ様にロイドも煙を吐き出す。まるで深いため息をする様に。
「気持ちは有難いんだが…俺が行った所で素直に立ち退いてくれるかどうか…」
「そうか?お前さんの言う事なら聞くと思ったんだが。お前さんは英雄なんだろ?」
ロイドは一瞬目を見開いてオークを見つめた後にうつむいた。
「…どこでそれを知った?」
「知ってるさ。オーク達の間でも有名だ。ティリスの鋼鉄の盾『ロイド守備隊』未だにあの城壁を越えれたオークはいねぇ」
「…その鉄壁の盾も今じゃあオークとつるんでセコイ盗賊家業さ。情けねぇ話だろ」
「そのセコイ盗賊家業もココじゃあもう出来ねぇ。俺達はあの村の位置をクロイツに伝えたらここから逃げるつもりさ。戦争に駆り出されるのはゴメンだからな。お前等も逃げろ。ここは戦場になるぞ」
そう言い終えるとオークは立ち上がった。
「すまねぇな。気を使って貰って…気持ちだけは貰っとくよ」
「まぁ達者でな。どっかの自由な地で出会えたら楽しくやろうや」
そう言うとオーク達は巨体を揺らしながら屋敷を後にした。
その客人が帰るのを見送ってからマハが屋敷に入ってきた。ロイドの前まで来ると話掛ける。
「話、聞いてたわ。どうするの?村に使いを出す?」
「…マイッタな…オークの襲撃があるから村から出て行け、ってのは俺が前に何度も使い古した手だぜ…。今更それを言って信じるほど学習能力が無いワケねぇだろ…マジで」
「で…どうするの?ここから逃げなきゃ、私達も巻き込まれるわ」
「とりあえず逃げ支度して村へ行こう。信じてもらえるかわけんねーけど、やるしかねぇだろ」
2
ロイドとマハ、そして彼等の部下達は逃げ支度を整えてオスナサイルにある無名の村の入り口まで辿り着いていた。ほんの前までは村の裏口などから侵入し「オークが来たから」と騒ぎ立てる村人達の間をぬって火事場泥棒に精を出していた。正面から村へ入るのは久しぶりだ。
「止まれ!そこの人達!」
ロイドは一瞬警戒して剣に手を掛けた。だが声の主はどう考えてもどこかの子供だ。暫くすると何かをズルズルと引き摺る音が聞こえ、草むらから数人の子供が現れた。重いものを引き摺る音はその子供達の持っている大人用の武器だった。
「怪しい奴等め!盗賊だな?!」
「な、なんで解ったんだ?」
「怪しげな格好をしてるからだよ!ここは絶対に通らせない!」
マハは微笑みながら男の子に近付いた。
「お姉さん達はね、盗賊だけど今日は盗みに来たんじゃないのよ?ほら、子供がこんな危ないものを持ち歩いてたら怪我をするわ」
マハは子供の持っていた武器に手を掛けようとしたがその子は手を払いのけた。
「離せクソババア!」
「く…クソババア?!」
「剣は伝説の英雄の魂だ!お前等みたいな悪い奴等が触ったら汚れてしまう!」
「こ、このガキ…」
マハは怒りを表に出さぬように引き攣った無理な笑顔を造りつつその男の子の持つ武器を取り上げようとすると、その子の脇から女の子が間に割って入った。他の子供と同じく大人用の武器を重そうに持ち上げていたが、それが子供でも扱える武器である事を知ったマハは顔が青ざめた。
ボウガンだった。重そうにボウガンを抱えたその女の子は狙いをマハに定めて引き金に手を掛けている。
「こ、こら、そんな危ない物離しなさい。まだそんな歳で人を殺めたくないでしょ?」
マハは震える声で言う。それに返すように女の子は言う。その声は重いものを持っているせいか、かなり辛そうだ。
「わたしは…ロイド守備隊の副隊長の…マハよ!ロイドから手を離しなさい!」
どうやら守備隊ゴッコでリーダー各の男の子はロイド役、女の子はマハ役だったらしい。マハはマハ役の女の子にボウガンを向けられて素早く男の子から手を離す。
見かねたロイドは話に割って入った。
「わ、わかった、お前が伝説の英雄、ロイドで、その隣はマハだよな?伝説の英雄は慈悲深い奴なんだろ?俺達が怪しいのはじゅーーぶん解った!でもだからって殺しちゃう事はないだろ?な?」
それを聞いた子供達は武器は離すことは無かったが構えの姿勢を止めた。リーダーの男の子は一歩前に出るとロイドに向かって言う。
「何の様だ!盗賊ども!」
「へぇへぇ…実はあっしら、オークがこの村を襲うという計画を聞きまして…村人達に逃げるように進言しに来たので御座います」
それを聞いた子供達は血相を変えた。
「オークが?!どうしよう…母さんに知らせよう」
「村の中に案内してくださいませんでしょうか?」
「解った。付いてきて」
3
はつみ達一行が宿屋の1階の食堂で寛いでいると、ドアを蹴破るような開け方で子供達が入ってきた。それに続いて見覚えのある顔、ロイドとマハ、そして彼等の部下も入ってきた。はつみ達と一緒に寛いでいたステファンはロイドを見つけると顔色を変えて彼の元に走り寄った。
「伝説の英雄、ロイドじゃないか!あんた一体ここで何やってんだよ!軍を辞めたって聞いて…」
「ん?お前、ジニアスの隊のステファンじゃないか?」
「いや…だからさ、一体ここで何を」
「話は後だ、オークがここへ攻め入ろうとしてんだ」
子供達はキッチンのある所まで駆け寄るとリーダーの男の子の親と思われる女性へ叫ぶように言う。
「オークが攻めて来るんだ!村を守らなきゃ!」
「はぁ?…何いってんだい、ウィル?」
それを聞いたウィルと呼ばれる子供の母親はそれほど驚いた感じではない。魚を捌いていた手を止めて出刃包丁を持ったままキッチンからフロアへ出てくる。そしてロイドを見つけると叫んだ。
「出ていきな!子供に嘘を吹き込んでまでこの村で盗みをしたいのかい!」
「待ってくれ!今まで騙して悪かったよ。謝る。スマン!でもな今回のは本当なんだ。頼むから信じてくれ!」
「盗賊の言う事なんか信じれるワケないだろう!今まで盗んだ物、利子付けて返しな!そしたら信じてやるよ!」
ウィルの母親は周りの客も圧倒されるような大声を張り上げて出刃包丁を突きつけながら言い放った。子供達もあまりの迫力に何も言えなくなっている。一人だけワケが解らずにうろたえているステファンがいる。頭が混乱しながら彼は言う。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ?伝説の英雄ロイドだぜ、盗賊なんて…なんかの間違いじゃ…」
「間違いなんかじゃないよ!コイツはね、盗賊まで堕ちた伝説の英雄なんだよ。今まで村人達は散々コイツに騙されてきたんだ。子供以外はコイツが元伝説の英雄ってのは知ってるのさ」
「う、ウソだろ…、盗賊だなんて…ウソだよな?」
ステファンはロイドの襟首を掴んだ。ロイドはステファンから目を逸らして俯く。そして言った。
「本当さ…俺は元英雄、ティリスの鉄壁の盾、ロイドだ」
「っざけんなよ!僕も、あの陰険なジニアスだってそうさ…アンタを目指してアルタザール軍に入ったんだ!それをなんだよ…軍を辞めたって?盗賊やってるって?…僕ら馬鹿みたいじゃないか!アンタを信じてる奴等、馬鹿みたいじゃないか!」
ロイドは逸らしていた目をステファンに向けた。ステファンは泣いていた。涙が赤くなった頬を伝って床に落ちた。それをみたロイドはステファンの襟首を持つと床へ投げた押した。
「お前に何が解るってんだ!」ロイドは叫んだ。
「わかんねぇよ!全然!」
「ステファン…軍隊ってのは何をする所だ?ティリスの街を守るのが軍の仕事か?そうじゃない。街を守るのも仕事さ。でもな、俺達は戦争をしてんだぞ。守ってばかりじゃないだろ…ある時は敵の城に攻め入って…人を殺すのさ。敵の奴等が必死に守ろうとしてるものを、ぶっ壊すのさ!俺は必死に守ってきたから解る。必死に守ってきたものが壊される辛さってのが解る!」
ステファンは何も言えなくなった。今は休戦中だがいつまた戦争が始まるか判らない。もし始まればロイドと同じく守備だけではなく攻撃部隊へと編成されるかもしれないのだ。それを知っていながら心の奥へ閉まっていたのだ。
ロイドは静かに話を続ける。
「アルタザール軍を除隊した時から俺達は流れ者っていう扱いになった。ティリスの鉄壁の盾…それが『戦争が嫌だから』って軍を辞めて、村や街で暮らしていけると思うか?伝説の英雄が軍を辞めたなんて他国に知れたらどうなる?軍は俺達の除隊は許したが、街や村で暮らすことは許さなかった。色々考えたさ。結局、盗賊っていう道を選んだ」
ロイドはマハや彼の部下を見渡して言う。
「俺の部下達を守らなきゃいけない。俺達は生きていかなきゃいけない」
そしてロイドは再び子供達の親である女性に向かって言った。
「本当にオークが攻めて来るんだ。金品を奪う為じゃない。この村を奪う為だ。オーク達はこのオスナサイルに要塞を築き、ティリス攻略の拠点にするつもりらしい。逃げてくれ…」
さっきまではロイドの話など聞く耳持たずの姿勢だったが、ステファンとの話を聞いていたその女性はその話を全て信用した。軽く頷いた。
「わかったよ、他の人にも言ってくる。今日中には逃げ支度しないとね…」
宿から出ようとした母親の袖を掴む手がある。さっきまでロイド役をしていたリーダーの子供、ウィルだった。
「母さん…僕等、村から出て行かなきゃいけないの?また帰ってくるの?」
母親は寂しそうな声で言った。
「もう帰っては来ないよ…この村はオーク達の拠点になるんだ」
「そんなの嫌だよ!母さんが守らないなら僕が守る!僕は伝説の英雄ロイドなんだ!守りきってみせるさ、だって伝説の英雄なんだから、」
「何馬鹿な事言ってるんだよ!死にたいのかい!」
母親の怒声が終わるより先にウィルはドアから外へ駆け出した。他の子供達も心配になったのか、その後を追って駆け出した。
「まったく、あの子は!」
それを追って母親も飛び出していった。
ロイドはマハの方を向き目で合図を送った後に親子を追って出て行った。その彼の後をステファンも追って出て行く。
4
村が見渡せる小高い丘の上に木の枝に吊るされたブランコがある。
大人用の武器を引き摺る様に持って現れたその子供は疲れて側に武器を放り投げるとブランコに腰をかけた。そして彼の後を付いてきたであろう女の子も、後ろからブランコを押してあげている。
「ウィル…お母さんに謝ろうよ。私達だけで村を守るなんて無理だよ」
「…」
ウィルが黙っていると草むらがガサゴソと音を立てて揺れた。
「見つけたぞ、ガキども」
現れたのはロイドとウィルの母親だ。ロイドが次の台詞を言うより早く母親の拳骨がウィルの頭を直撃した。
「ってぇな!何すんだよ!」
ウィルは母親に向かって怒鳴る。
「この馬鹿!早く荷物を纏めて出て行くんだよ!」
その痛みに瞳に涙を浮かべたがウィルは止むることなく言い続ける。
「このままオーク達に村を乗っ取られたら…僕の大切な故郷が無くなっちゃう!ナヤの木に作ったブランコも、エミーの家の水車も…みんな…みんな無くなっちゃうんだ…」
そしてウィルは泣き出した。その涙の理由は母親の拳骨の痛みではなく自分の故郷を失う辛さからだった。
「そんなもの…また別の土地に住む時に作り直せばいいじゃないかい」
見かねたロイドはウィルに向かって言う。
「ボウズ。母ちゃんのいう事聞いて村を出るんだ。…死んだら何もかも終わりだぞ」
隣で頷く母親。そして彼女はロイドに言う。
「ごめんなさいね、ロイド。アンタを子供達の前で元英雄だなんてバラしてしまって。私は…ずっと黙っておこうと思ってたんだよ。アンタが今は盗賊でも、英雄だったのは事実なんだ。子供達の心の中でずっと英雄であってほしかった…ついカッっとなっちゃって…」
その話を聞いていたウィルは母親を見て怒鳴った。
「知ってたさ!」
ロイドも母親も驚いた。ウィルは話を続ける。
「伝説の英雄が盗賊に成り下がった事なんて皆知ってる!だから…だから僕、自分が伝説の英雄になってやろうって思ったんだ!僕がこの村を守るんだ…ナヤの木のブランコも、エミーの家の水車も、僕が…僕が守るんだ」
その子はそういい終えるとポロポロと涙を溢して泣き続けた。側に寄り添ったマハ役の女の子はその子の頭を優しく撫でた。それに答えるようにその子は続ける。
「エミー…ごめんよ。僕、この村の思い出も守ってあげれないかも知れない…」
その話を背中で聞いていたロイドは静かに呟いた。
「俺は…何を守ろうとしてたんだろうな…」
「ロイド…アンタ、馬鹿な事考えちゃいないだろうね?」
その子の母親はそう問うた。
「せめてもの罪の償いだ。守らせてくれ…俺達がこの村を守る」
「ば、馬鹿な事やおよしよ!いくらティリスの鉄壁の盾だって、その人数で守りきれるわけないじゃないか!オークはこの村に拠点を築くために大群で押し寄せてるんだよ?」
ロイドはステファンの方を向き、静かに言う。
「…ステファン…"元"ティリス防衛軍、軍団長のロイドからの命令…いや頼みだ。今から直ぐにティリスへ戻ってジニアスに軍を遣せと伝えてくれ…それまで俺達の手でこの村を守る。オークどもにこの場所に拠点を作らせたら後々アルタザールの障害となる。仮に一旦この村を去って、後から大群引き連れてやってきたとしても、オスナサイルのこの地形だ。奪還するのは至難の業だぞ」
ステファンはさっきまでの泣き面は何処かへ行ったのか笑顔でその答えを言う。
「やっとアンタらしくなって来たじゃねーか!」
「あぁ…すっかり忘れてたぜ。何かを守りたかった。ただそれだけだ。ただそれだけがしたかっただけなんだ。深いワケなんて無い。ただそれだけをしてれば幸せなんだよ」
「ロイド、ジニアスの野郎に会いに行く前に、助っ人にお願いしなきゃいけないんだ。今度はマジでヤバイと思う。だから少しでも守り切る確率上げる為にな」
「助っ人?直ぐにこの村に来てくれるのか?」
「もう来てるさ。さっき会っただろう?東洋の装束を来た女の子だよ」
そういうとステファンは村へ向かって走り出した。
5
安宿の食堂に現れたステファンははつみの前に立つと素早く土下座をした。
「はつみ様…どうか手を貸してください!」
はつみは暫く戸惑った後に理由を聞いた。
「あの、顔を上げてください。手を貸すって何をするの?」
「この村をオークから守る!」
その言葉を聞いたはつみ自身も、周りにいた風雅達も驚いた。そしてその場にいた旅人や村の人々も、その言葉に驚いた。そして回答に困っていたはつみの間に風雅が割ってはいる。
「さっきの話ではオークが攻めてくるから村からは逃げるって事になっていたと思うが…一体どういう経緯でこの村に篭城する事になったんだ?」
それに引き続いてその場に居た村人や旅人からも困惑の声が上がる。
「すまないが俺は逃げさせてもらうよ」これは旅人の声。
「それは死ぬようなもんだ。何はともあれ命が一番大切だろ」これは村人の声。
「悪いな…」
そう言って一部の旅人達は荷物をまとめてステファンの隣を通り過ぎ、外へ出て行った。それに続くように他の旅人達も荷物をまとめる。
そんな中、誰かが安宿の食堂の扉を開き、ステファンの隣に立つ。そしてステファンと同じ様に跪いてはつみに向かって土下座をした。ロイドだった。
「ロイド…」
「俺からも頼むよ」
そしてロイドの背後からもう一人、安宿のドアを開く。先ほどの子供の母親であり安宿の女将だった。
「みんな、聞いとくれ…私もここに残って村を守る事にしたよ」
「女将さん、正気か!」これは村人の声だ。
「逃げたい人は逃げておくれ。命を粗末にするものじゃない。私はただ、自分の家を…この宿を守りたいだけさ。この子に教えてもらったのさ。守るべきものは命だけじゃない」
そういうと女将は我が子の頭を撫でた。
「この世界、どこかへ行けばまた同じ様に宿を立てて旅人をもてなす事も出来るだろうね。でもね、このオスナサイルの安宿は他にはない。ここで過ごした思いでも他のどこへ行ってもないんだよ。『そこは邪魔だからどいておくれ』と言われて『はいわかりました』なんて生き恥をこの子の前では見せたくないのさ。守らなければならない時がある。それをこの子に教えようと思ってね」
そして女将もロイドに続いてはつみに土下座した。
「あ、あの、私どうすれば…?」
はつみは困惑して風雅や豊吉、ナジャやミーシャを見る。世界を救うをという目的で旅をしているのだ。それを中断させて、そして命を危険に晒しても彼等を助けるのか、それを問う様に。
「手伝うよ。ボクも故郷を失う気持ちは解るから」とナジャ。
「ナジャと同じ。風雅と豊吉は?」とミーシャ。
「手伝おう。でも命は最優先だ。脱出路は常に確保して守ろう…それで問題ないですか、豊吉さん?」と風雅。
「人命救助が我々に課せられた目的ですからね。それではつみさんはどうするんです?」と豊吉。
「私も、お手伝いします」とはつみ。
ロイドは涙声混じりに言った。
「ありがとう…」
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