【くれがた】
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約束もせず
知らせもなしに
鐘が鳴る。
約束もせず
知らせもなしに
涙が出る。
【靴下】
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あなたのための
靴下を
白い毛糸で
編みませう。
もし靴下が
やぶけたら
赤い毛糸で
つぎませう。
けれども
遠い旅の夜に
あなたの心が
破れたら
あたしは
どうしてつぎませう。
【鶯】
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春に別れた鶯は
海のあなたのセルビヤへ
花をたづねてゆきました。
あちらむいてもはあな花
こちらむいてもはあな花。
花で鼻をぶつゝけて
気狂鳥になりました。
【無】
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それは「無」といふ
小つちやな家に
「無」といふ
お婆さんが住んでゐました。
一人の男が欠伸して
さうして
口をふさいだら
家もお婆さんも
なくなりました。
【みどりの窓】
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あなたのために
窓をあけ
あなたのために
窓をとぢ
みどりの部屋の
卓のへに
青い花を
さしませう。
あなたのために
窓をあけ
あなたのために
窓をとぢ
みどりの窓の
日あたりに
青い小鳥を
かひませう。
あんまりはやく
幸福がきて
あんまりはやく
幸福がゆかぬやうに
私達は
待ちませう。
【虹の橋】
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若い娘のふところを
あんまり見てはいけませぬ
ほんに小琴であつたなら
音がみだれて鳴らうもの。
若い娘の小袖をば
風さへよけてふくものを
真珠の露であつたなら
草にこぼれて散りまする。
それはたとへば虹の橋
わたるためしはないものに。
【手紙】
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サンタクラスおぢさまへ
あなたは今年のクリスマスにも
あたしに何か贈物を下さいますか?
去年はヴアオリンを下さいましたね
一昨年はお人形を下さいました
その先の年にはリボンでしたわね
今年は何を下さいます
あたしは十六になりました
あたしはもう玩具も人形も
ヴアオリンもほしくはありませんの
ほうなぜねつてお聞きなさるの
その訳は聖マリア様が御存じです
それは手で遊んだり眼で見たり
耳で聞くものではありません
何か下さるのだつたらどうぞ
聖マリア様にお尋ね下さいな
さやうなら
十二月五日 しづ
【鐘】
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鳴らない鐘の
あることを
知らずにゐた日が
しあはせか
知つたこの日が
しあはせか
引けども
鳴らぬ鐘ならば
いつそ
引かずに
おいたもの。
【ノック】
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けふも
私の室の戸を
ノツクするのは
誰だらう。
きのふもきたが
開けなんだ
城の后の御使か
それとも
青い小鳥なら
開けて呼ばうか
あけまいか
もしや悪魔の
使なら
……やはりあけずにおきませう。
【春を待つ】
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縫ふ手をやめて
おもふこと
五月の朝の森の径
袖にみだれた青い花
縫ふ手をやめて
おもふこと
ゆふくれかたの灯の影を
はぢらひがちにみたことの
書く手をやめて
おもふこと
心に傷をつけぬため
思ひすごしをせぬやうに
書く手をやめて
おもふこと
泣いてゐますと書いたなら
もしもあなたを泣かそかと。
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【ものおもひ】
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風に吹かれりや
きえるかと
野に出て見たが
きえもせず
うつり香ほどの
ものおもひ。
【手】
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右の手が
書いた手紙を
左の手は
知らない。
右の手が
握手したのも
左の手は
知らない。
だが
左の手の指の指環が
何を意味したか
右の手は
知つてゐる。
【春はとぶ】
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あの日の
まゝで
またいつ
逢ふやら
逢はぬやら
たんぽぽが
散るに
そつと
おかへり。
【留針】
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あなたが
忘れていつた
留針が
「蒼ざめた馬」の
中から出てきて
今日もまた
ひとりの
夕方になりました。
【読本】
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A
とわたしがいへば
A
とあなたがいふ
B
といへば
B
といつた。
二人がかうして
読本をよんだ時は
もう過ぎた。
ユニオンリーダアの
「母が最後のキス」をよむ時
あなたはいかに屡々
わたしの手へ涙をかけたらう。
時は二人を
遠く追ひやつた。
わたしが
Cといへば
あなたもあるひは
Cといふだららう
またまるつきり
Dといふだらう。
どちらにしても
もはや二人で
読本をよむ時は
過ぎました。
【最初のキツス】
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五月に
花は咲くけれど
それは
去年の花ではない。
人は
いくたびこひしても
最初のキツスは
いちどきり。
【泉のほとり】
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若い娘が泉のはたで
あんまり暇をとらぬもの
もしや泉でぬれよもの。
若い男が灯のつく時に
橋の袂へたゝぬもの
肩に柳が散らうもしれぬ。
【花火】
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紺青のほのめく空に
つい/\と花火はのぼる
いさぎよくちるや
らんぎく
やなぎ からまつ
かぎや たまや
うつくしきものは
なべてはかなし
水のほとりのかはたれに
柳をひきて
ひとの嘆かふ。
【川】
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はじめ二人を隔てたのは
ほんに小さい川だつた
それを二人は苦にもせずに
両方の岸を歩いてゐた
いつの間にか川は大きくなつた
そしてたうたう越すことの出来ない
大きな川を隔てた
もはや二人のための舟も橋も今はない
どちらかが水へ飛込まねば
二人が逢ふ時は永久にない。
【丘の家】
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私の窓から
丘の家の
一つの窓を
今夜も私は
ぢつと見て居る。
丘の家には
どんな人が住んでゐるのか
私は
知らない
昼はガランスローズの窓掛を閉ざし
夜は青い灯を見る
夜毎に私はあの窓を見る
それは約束しない約束のやうに――
昨夜はまだ宵の早い時
一時間ばかり坐つて見てゐた
灯はつかない。
いくら待つてもつかない
約束をしない約束を
破られた心はいたはるすべもなかつた
それから三日目の午后
丘の家から葬式が出た。
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