【かたち】
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浮べる雲の一綫(ひとすぢ)は
碧きが中にたゆたひて
覆輪(さゝべり)着けし銀の
天の島とも見ゆるかな
潮の底より月出でゝ
影、中空に盈ち來れば
浪靜かなる大和田の
月は舟とも見ゆるかな
舟か水門(みなと)の舟ならば
せめては長き秋の夜を
際(はて)なき水に流されて
灼(もゆ)る枕を浸(ひた)さんに
毒ある鏃足に受けて
野べに嘯(うそぶ)くことをすら
停(とゞ)められたる我なれば
唯舟こそは戀しけれ
負ひたる傷の深ければ
物に觸るゝを厭へども
寢ぬに綾無(あやな)き幻の
花の象(かたち)の眼に見えて
緑、紫、紅の
花は、電、空の虹
環りて、消えて、美しの
人の顏さへ浮き來るを
千草に渡る金風の
露吹きこぼす朝ぼらけ
花の苑生(そのふ)を眺むれば
長しとも思ふ命かな
今日も落ちたる花片の
しめれる地(つち)に香を留めて
* *
* *
香取(かとり)の海は川となりて
浪逆(なさか)の浪はよも逆らじ
行かんか旅に病みぬとも
今は悲む夢も無し
【哀歌】
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羅綾(られう)の裳裾(もすそ)かへしては
春を驕(おご)りし儷人(れいじん)の
腰に佩(お)びたる珠(たま)鳴りて
秋燕京(ゑんきよう)にたけてけり
霜こそ置かね天津の
橋に見馴れぬ旗立ちて
紫深き九重の
雲もかへるか峽西に
陽明園(はこやのやま)に炬(ひ)入(い)りては
玉の宮居も燒けつらん
蓮葉枯れし夕暮の
池に舟行(や)る人もなし
金房垂れし鞦韆(ふらこゝ)に
みだせし髮はをさめじな
西に流るゝ天の川
曉(あかつき)浪(なみ)の驚けば
永安門(えいあんもん)の階段(きざはし)に
落ちたる花は誰が妻か
脛も血潮に染めなして
劒ぞ胸に刺されたる
【その夜更けて】
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水ほの白き湖(みづうみ)の
汀(みぎは)の櫻花散(ち)りて
嫁(とつ)ぐか君は筑波根の
八重立つ雲の奧深(おくふか)く
蘭麝(らんじや)馨(かを)れる閨(ねや)の戸(と)に
尾呂(をろ)の鏡(かゞみ)を手にすれば
影に溺(おぼ)るゝ山鳥(やまどり)の
頬(ほ)に紅(くれなゐ)の色(いろ)潮(さ)すを
花やかなりし獨寢(ひとりね)の
夢の浮橋(うきはし)中絶(なかた)ちて
丸(まろ)がれ易き黒髮に
瑠璃(るり)の簪(かんざし)かゞやかし
歸(とつ)ぐかあはれ月波根の
群立雲(むらたつくも)の遠方(をちかた)に
山影(やまかげ)落(おつ)る湖の
浪間の月を形見にて
しるしなき戀をもするか夕されば
ひとの手卷きてねなん子ゆゑに
【沼にて】
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蓮(はちす)の浮波(うきは)掻分けて
棹(さお)さし廻る湖や
落日(おつるひ)空の雲染めて
夕の浪は静かなり
筑波も暮れぬ野も暮れぬ
唄も暮れぬる藻刈船
撓(しな)へる棹を操(あやつ)りて
行くべき方も暮れにけり
柳垂れたる江の上(ほとり)
橋かけ通る裸馬
打放(うちはら)らかす立髪(たてがみ)の
黒きも水に洗はれて
手綱控ふる若者の
鉢巻白し秋の風
舟と橋との上にして
恋もあれかし恥ずかしの
【旅にして】
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山秀でたる吾妻路の
平野(たひら)の水をあつめ來て
南に落つる利根川の
浪は寂(しづか)に翻[#「翻」はママ](かへ)るかな
行くともわかぬ白雲の
かゝりて長き眞砂地や
蘆邊に立ちて眺むれば
浪逆の浦は雨晴れて
日光(ひかり)あまねき湖の上を
遙に渡る尾長鳥
ま白き翼(はね)は搖(うご)かさで
鳴く音は空の秋の風
鏡に映(かよ)ふ花ならば
異(け)なる影にも慰まむ
思へば旅の果にして
新たに戀ふる人は無きを
蝦捕り舟の漕ぎなづむ
八十(やそ)の水門(みなと)はへだつれど
霧に浮べる月波根の
眉なす根ろは北に在り
【星夜】
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腰にからめる紅(くれなゐ)の
帶(しごき)は虹(にじ)に似たるかな
衿にほのめく白妙(しろたへ)は
谷につゝめる雪と見ん
美(うつく)しき舞姫(まひひめ)よ
鳥は霞の天(そら)に舞ひ
蝶は花野(はなの)の地に迷(まよ)ふ
君(きみ)若草(わかくさ)を枕して
夢見(ゆめみ)る勿れ春の野に
美しき舞姫よ
笄(かうがい)光(ひか)る黒髮は
解(ほど)かば風に亂れなむ
せめてはかくせ扇もて
月の影ある眉の跡(あと)
美しき舞姫よ
星の夜、姉に伴(ともな)ひて
祇園(ぎをん)の町をさまよへば
櫻はちんぬ、しかれども
おさなかりけるうき人の
俤(おもかげ)に似(に)し君(きみ)を見(み)て
うらぶれわたるわれさへも
西の京の去りかねて
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