【トルストイ】
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いとも尊き十字架は
クルツプ砲に護られて
靈鷲山の愛の鐘
血潮の庭に鬨(とき)あぐる
叫びにかはる文明や
人は獣と握手せぬ
「嗚呼世の末日(すえ)は近づけり」
言葉の訛、肌膚(はだ)の色
屠(ほふ)る、屠らる運命か
悪魔の辭書に榮ゆべく
「戦争」の名を焚かざらん
涙の糸の經緯(たてぬき)に
織りいだしたる愛の書(ふみ)
聖(きよ)き天火に觸れしめよ
見よ北欧の秋寂びて
落日光薄ければ
黄霧かぎらふ荒磯べの
岩に堰かるゝ寒潮や
鞭うち揮ひ銀髯の
翁は高く叫ぶらく
「悔い改めよ人の子よ」「週刊平民新聞」
1904.2.4
【我等が建つる愛の旗】
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「富」の魔神のKき手に
靈(こゝろ)の鍵はしばられて
人の生(よ)いつか暗K(やみ)に馳せ
藝術(たくみ)の海に濁波(なみ)荒れて
道義(みち)の林は枯れむとす
狐のごとき法師等が
誦(ず)す金装の經巻も
富者(ふうしや)をかばふ甲冑(よろい)にて
偽善の白衣、蛇の舌
盲者(めしひ)、跛者(あしなへ)、不具者(かたわもの)
みなひれ伏して讃歌して
「黄金」の宮殿(みや)に跪く
罪悪(つみ)の樹蔭に悲みそ
苦き果實(このみ)に泣く勿れ
野に光あり、あたゝかき
希望の聲の響けるを
天父(ちゝ)が聖燭(あかし)の下にして
義の玉杯(さかづき)を酌ましめよ
聖者(ひじり)の鞭は抛(なげう)たれ
詩人の琴はこぼたれて
天火の罰をおそれざる
富の魔神のふるまひや
「弱者(かよわき)」冠はたゝけど
我等は樹(た)てむ愛の旗
眞理の剣、義の楯に
斷頭臺(くびきりだい)の上(へ)にそゝぐ
からくれなゐの血潮もて
この戦闘(たたかひ)をつゞけざらめや
「週刊平民新聞」
1905.1.8
【海濤を望みて】
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葡萄流せるわたつみの
茜さしたる東(ひむがし)や
荘厳、偉麗、堂々と
海濤(なみ)も光明(ひかり)に醉ひにけむ
波濤の中に聲ありて
人の子何の権威あり
「海」の聖者が教訓(みをしへ)を
ほしいまゝにも妨ぐか
ローマ、バビロン、カーセーヂ
攻めつつ、屠(ほふ)りつ、戦ひつ
罪忍(つみ)の火抱きひたすらに
滅亡(ほろび)の門にいそしぎよ
黄金冠(かん)よ、玉笏(ぎよくこつ)よ
磯の藻草にひとしかり
雲も憚かるバベル塔
彼の泡沫の消ゆること
今し暴(あらぶ)る王の威も
小き陸(くが)の上ぞかし
神か怒にふさはしき
浩濤、天に逆捲けば
見よ、混沌の太古より
あゝ永劫の終焉(おはり)まで
海濤よ、「自由(じいう)」を宿として
愛の新譜をかき鳴らせ
「週刊平民新聞」
1905.1.15
【鴎を慕ふの歌】
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相模の濱の夕なぎに
潮の香高き磯蔭を
匂ひわたれる遠海に
むつみかけゆく鴎(かもめどり)
「創造(クリエーシヨン)」の曉ゆ
汝(なれ)は平和に輝けど
陸(くが)の上には人の子の
毒矢(どくし)塗り持ち闘ふよ
悲しからずや魔がK鞭(むち)に
靈の燈(ともしび)消えてより
神が作りし花園は
不義の血潮に汚(けが)れたり
我れいまをほく人の世の
姦惡(つみ)怒りて岩に立ち
「道徳(みち)」も「宗教(おしへ)」も語らざる
鴎を慕ひうち歎く哉
「週刊平民新聞」
1905.1.22
【社會主義の歌】
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偽善者聖(きよ)き壇下れ
疾風ふきちる粃糠(もみがら)の
空しき言葉聽くべきか
富の暴力(ちから)の勵(はげ)しきは
譬へば狂ふ怒濤(あらなみ)の
汀の蘆(あし)を捲く如し
快樂(けらく)の海の鴎(かもめどり)
驕奢(おごり)と慾の冠毛(かんもう)を
太陽(ひ)に輝かしほこれども
人は憂愁(うれひ)の塔の影
飢えをかなしむ野鼠の
暗K(くらき)を逐(お)ふて號哭(なげ)けるを
「自由(じいう)」に歌ふ小雀よ
「権力(ちから)」に媚びぬ野の花や
人の子何ぞ「屈従(したがひ)」と
「恐怖(おそれ)」は心靈(れい)を侮辱(はづかし)む
見よ豺狼(さいろう)は白日に
虚榮の街を奔(はし)りゆく
「耻辱(ちゞよく)」に眩(は)ゆる綺羅の衣(きぬ)
燃ゆる血潮に焚(や)かしめよ
「罪惡(つみ)」に聳ゆる三層樓(たかやぐら)
火の洗禮をあたへざる
石灰(すみ)を噛(かぢ)つて生活(いき)んより
人道(みち)の戦闘(いくさ)に斃ればや
豫言者鞭に叱咤せば
紅海の水涸れにしよ
「富」を地上に仆(たお)すこそ
「権力(ちから)」を最後(はて)に沈むこそ
鶴嘴握る銅色の
我が掌にこもらずや
モリス叫びぬ全球の
王の王なる寶冠(かんむり)は
鐵槌揮ふ勞働の
蓬髪被服の人にこそ
苦役(つとめ)の軛つらくとも
高き理想(おもひ)を追求(もと)めざる
あゝ「平和(やわらぎ)」を舟として
「自由」の岸に行かしめよ
「道徳(みち)」も「藝術(たくみ)」も「文明」も
美なる花環に飾られて
愛の光線(ひかり)に人の子が
聖(きよ)き慾こそ進みなむ
無花果の若枝(えだ)柔らかに
嫩葉(は)の芽ぐみなば夏を知る
ソシアリズムの閃めきは
十五億なる同胞を
歡喜の門にさそふべき
これ天國の玉輦(くるま)ならずや
「直言」 1905.2.19
【社會主義の歌】
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胡蝶やさしき舞衣に
銀燭あかく映ゆれども
髑髏さゝやくものすごき
墓の都をいかにせむ
高「ろ濃き葡萄酒は
苦き涙を瀝(した)みてぞ
かよわき胸の紅血(ち)を吸ひて
飽くこと知らぬ毒虫よ
枯野の石のつめたきは
道徳(みち)説く人のこゝろなれ
七堂伽藍何かせむ
破(や)れし小舟(おぶね)の教法や
人は休息(いこひ)の牧場をぞ
民は高フ草の野を
長き愁に待ちしかど
社會(よ)はとこしへに冬なりき
闇を慕へる梟は
光明(ひかり)まばゆき靈鳥の
蒼穹(おほそら)たかく翔りゆく
清き聲音を忌みやせむ
地や榮光にかゞやきて
天の平和を讃美する
あゝ永遠の王(きみ)こそは
ソシアリズムの名にて君臨(のぞ)まむ
「直言」 1905.7.9
【火の柱】
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天に令あり世よ醒めよ
「滅亡」の府にさそふべき
洪水今し來らむと
義人は起て叫びしも
捕縛(とらは)れゆきて姦吏等に
額を石もて殺されぬ
昔者希臘の怪神が
荒びも其れか「権力(ちから)」はも
傷める花をふみにけり
胸に創もつ雛鳩の
苦悶のこゑも驕童の
冷たき笑に價せし
君なほこりそ國會は
心の刃肉に飽く
巌の窟の野獣にて
紫衣の博士も聖壇の
長き袍(うちぎ)の法師等も
髑髏をつゝむ白き墓
蠶(かいこ)四度の安眠(ねむり)あり
あゝ人の子は何故に
器械のもとに終夜(よもすがら)
疲れし頭うなだれて
暴風雨(しけ)のあとなる荒磯に
愁ひて伏せる貝のごと
香腮粉臉春の人
快樂の瓶を興がりて
鮮血(ち)の結晶(したゞり)の高樓に
薔薇の蕋より消えやすき
驕奢(おごり)の夢を朱鷺色の
綾衣にこそつゝみぬれ
大理石(いし)の脈にも紅血(ち)は跳る
我れに熱涙(なみだ)のなからずや
正義の鐵筆(ぺん)にねがはくは
貴族富豪を呪詛はむか
寒沙を照す爛星の
人道(ヒユーマニチイー)の法廷に
市の小人いたづらに
黄金に盲いし瞳には
夕の葦に録されし
聖き文字も見るをえじ
今ぞ紅蓮の火の柱
裂けてくだけて堕ちて焼かずば
「火鞭」第1巻第1號
1905.9.10
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