【米國獨立】
▼
茫々乎たり 茫乎たり
太平洋は 太平の
基も固し 文明の
風も香し 亞米利加洲
百年前は 英吉利の
國の支配の いと辛く
民の自由 踏躙り
其の暴虐も 極まれり
當時同盟 十三洲
之を忍ぶに 忍ばれず
頻に鳴らす 革命の
獨立閣の 鐘の聲
獨立閣の その鐘も
之をたゝいて たゝき破り
生くも死するも この時ぞ
自由よ自由と 叫びつゝ
老も若きも 差別なく
少女が友も 押なべて
其赤心を 振おこし
先に/\と 競ひたち
樵る男も 海士が子も
草刈る賤も とり/\に
己が獲物を 提げつ
吾も/\と 雄健びて
雲の如くに 四方より
襲ひ來れる 英國の
其の大軍も 物かはと
進み戰ふ いさましさ
天にとゞろく 雷は
此處や彼處の つゝの音
四方に閃く 電は
交ふる戈の その火花
きのふは親子 もろ共に
煙のなかに うち顛(まろ)び
けふは兄弟 相倶に
雨ふる丸の 下に伏し
あはれ千古の 英雄や
又絶世の 佳人まで
むなしく茲に 戰場の
露と消しも 幾許ぞ
血は漂ひて 波土頓の
ひろき海をも 朱に染め
屍は積みて 落機の
たかき山をも 築くべし
羶風腥雨 天地の
間に溢れ あふれつゝ
七とせあまる 憂き月日
猛り戰ふ 其の結果
妖氛遂に 打晴て
目出度こゝに 英國の
支配を遁れ 獨立の
旗を雲井に 飜へし
凱歌の聲と もろともに
始て開く 新天地
自由共和の 新天地
榮え行く世の 新天地
【瑞西獨立】
▼
雲に聳ゆる 白山や
其の風景も 倫なく
いまは春風 和みつゝ
自由の花の 匂ふなる
瑞西の國は 其むかし
墺地利に 併されて
さも苛酷 暴政の
嵐の斷ゆる ひまも無し
左れば世の爲め 民の爲め
天下の爲めに 革命の
師をおもひ 起しにし
維廉剔爾の こゝろざし
之れと心を 同ふし
ともに慷慨 悲憤して
精~勃々 やみがたし
剔爾の親友 米爾底撒
剔爾に向ひて 言けひらく
維廉剔爾よ 我兄よ
此の暴政を いかんする
此の暴政を いかんする
干戈を執て 革命の
軍を起し 皇大に
其の裁判を 仰ぐべき
時いづれの 時なるぞ
この一言に はげまされ
維廉剔爾も 今は早や
いとゞせかるゝ 思ひして
其の用意をぞ 急ぎける
さて瑞西の 民ぐさは
彼の苛酷 虐政の
嵐の風に しをれふし
見る目忌々敷 あれはてつ
虎狼の 群なして
四方に蔓り 朝宵に
踏みしだかるゝ 有樣を
誰やし人か 悲まぬ
怨は深く 骨に浸み
怒るこゝろは 火の如し
寧ろ死すとも いかでかは
此の暴政を 默すべき
一千三百 八年の
歳にあくるや あら玉の
春は一月 一日に
席の旗手 ひるがへし
進めや進め 國人よ
自由の戈を 手握りて
よもに蔓り あらび立つ
虎狼を つくせよと
我が此の國に 寇なせる
汝が仇を 攘ふべき
時は今此の 時ぞとて
猛り戰ふ 勇ましさ
打出す音に 散る玉は
秋田に集く 螽蜥
交ふる戈に 咲く花は
野分になびく 幡薄
彼の白山の 白雪も
天を覆ひ 雲を成す
黒き煙に うづもれて
空吹く風も なまぐさし
我軍勢は 猶ほも又
今を限りと はたらきて
聲は山をも 轟かし
氣は闘牛をも 貫けり
墺地利の 百萬の
其大軍も いかでかは
敵することの なるべきぞ
妖氛遂に 打ち晴れて
山なす屍 めで度も
築き興せり 自由郷
河なす血潮 めで度も
染め出しけり 自由郷
+---------+
(註)
■瑞西獨立=スイス独立
■墺地利=オーストリア
■維廉剔爾=ウィリアム・テル
【不盧多】
▼
嗚呼義なる哉 義なる哉
千古の義人 不盧多
萬世經ぬる 後までも
其の名を遺す 不盧多
憶へばむかし 羅馬にて
執政官の ト撒が
彼奔厖に 勝ちてより
國の政治を 手に握り
猶ほも野心を 挟み
己れ天子の 位をも
窃まんものと さま/\に
姦計邪謀を 運らすを
その國人の 不盧多は
之れと割なき 友なれど
限りもあらず 憤り
汝ト撒 亡禮なり
共和の國を ひるがへし
天下を己れ 一人の
物と爲さんず 其の心匠
實にや國家の 虐賊なり
ヨシ/\ソウと 今は早
思案を定め それよりは
同じ思ひの 人々と
密に事を 示し會ひ
羅馬の國の 民の爲め
斯の虐賊を 除かんと
用意を爲して 議事院に
彼の來るを うかゞへり
暫ありて 不盧多が
虐賊汝と 叫はれる
聲もろともに 電の
光りあざむく 匕首
今入り來る ト撒の
脇腹慇と 刺し透し
自由萬歳 羅馬國
人民勝利と 叫びたり
さて不盧多の 謂ひけらく
ト撒汝は わが爲めに
親友なれば われとても
いかで汝を 疎むべき
されどこの國 千萬の
民の自由を 愛するは
ト撒汝を 愛するは
猶百倍も まさるなり
吁ト撒を 生かさん乎
民の自由を いかにせん
民の自由を 護らん乎
ト撒汝を いかにせん
ト撒汝が 是までに
予を愛する 仁心の
山より高く 海よりも
深きは予も 知るぞかし
汝が恩の 厚きには
涙のいかで 無かるべき
汝が其身の 榮えには
嬉しと誰か 思はざる
さても汝が 斯の國に
不義なる爲めに 予は又
汝に向ひ 謹んで
この刃をぞ 進めける
嗚呼義なる哉 義なる哉
千古の義人 不盧多
忠といふべし 不盧多
勇といふべし 不盧多
+---------+
(註)
■不盧多=ブルタス=ブルータス
■ト撒=シーザー
■奔厖=ポンペイ
【自由歌(其一)】
▼
嗚呼自由てふ 賚は
天の與ふる 所なり
之を愛せよ 世の人よ
人を敬せよ 世の人よ
雲のうへなる 宮人も
草の廬に 住む賤も
斯の大なる 賚を
誰か受け得ぬ 者のある
自由は人の 命なり
自由は民の 寶なり
實にも人間 幸福の
その大王と 謂ひつべし
左れば斯の王 赫として
一たび怒る 其の時は
天地も爲めに 動くべく
鬼~も爲めに 懼るべし
蕩々乎たる 勢は
湛えし水の 一時に
堤を決り 行くごとく
山をもくづす ばかりなり
其の精~の 溢れ來て
一度こゝに 激すれば
英に在りては 査列士の
首を刎ねたる 刀となり
佛に在ては 路易の
頭を斬りし 劒と爲り
米に在ては 英吉利の
覊軛を脱けし 檄と爲り
瑞に在ては 墺國の
支配を辭せし 其の軍
流るゝ血潮 積む屍
共和の國を 開きけり
電光一閃 不廬多の
思ひを遂げし 匕首
羅馬の民の その敵
該撒茲に 誅せらる
激雷一發 虚無黨の
爆烈弾の 轟くや
露西亞の國の 其の天子
亞歴山帝 頭なし
馬克那査達と なるときは
冑をぬぎて 約翰王
民權黨の 轅門に
降伏をこそ したりけれ
權利法案と なるときは
脆くももろし 惹迷斯王
王の冠を 剥ぎとられ
一朝位を 廢せらる
或は佛國 革命の
親とも云はん 慮騒の
民約篇と なるときは
肝膽寒し 虐主共
或は米國 革命家
第一流の 顯理の
其の演説と なるときは
壯烈に泣く 鬼~まで
斯の王こゝに 存すれば
何をか愁へ 哀まん
國の光を かゞやかし
開花の花を 咲かすべし
吁磋我が東洋 亞細亞には
昔よりして 不幸にも
彼の専制の 惡風の
斷る間もなく 吹き荒び
蒼生は 卑屈てふ
いと憂ふべく 歎くべき
病にかゝり 萬物の
長たる甲斐も あらばこそ
人の人たる さまもなく
國の光も 消ぬるを
唯默々と 餘所に見て
之を復する 念もなし
看よや印度は 曾てより
彼の英吉利に 滅され
安南は已に 佛蘭西に
其の獨立を 蹴たほされ
緬甸や呂宋 爪哇までも
皆歐羅巴の 國々に
其地を掠られ あはれにも
奴隷とこそは なりにける
猶清國や 朝鮮も
危きことの 限りなく
或は版圖を 縮められ
復いかんとも 爲しがたし
之を思へば ただひとり
湧くが如くに 血涙の
浮び來りて 潜然と
袖をうるほす ばかりなり
+---------+
(註)
■査列士=ピューリタン革命で処刑されたチャールズ1世
■路易=フランス革命で処刑さたルイ16世
■瑞=スイス
■墺國=オーストリア
■不廬多=ブルータス
■該撒=シーザー
■亞歴山帝=アレクサンダー2世
■馬克那査達=マグナカルタ
■約翰王=ヨハネ
■惹迷斯王=ジェームス1世
■顯理=パトリック・ヘンリー
■緬甸=ビルマ
■呂宋=ルソン
■爪哇=ジャワ
【自由歌(其二)】-利韻-
▼
吾の願は 自由なり
吾の願は 自由なり
自由と與に 偕に生き
共に死せんと ちかひけり
寧ろ命を 捨てぬとも
捨つべからぬは 自由なり
寧ろ我が身を 殺すとも
殺し難きは 自由なり
さればパトリク ヘンリーは
天に誓ひて 吾々に
自由を與へよ 否らずば
死を授けよと 叫びけり
自由を以て 世に在らん
自由なくんば 死せんのみ
こは佛國の 議會にて
議員の誓ひし 詞なり
彼の古の プラタスは
其の萬民を 救はんと
自から虐主を 刺し殺し
己れも遂に 亡びたり
ジヨーンケードは 其國の
時の政治を 憤り
干戈を執りて 革命の
軍の爲めに 斃れたり
愛爾蘭の エミツトは
其の國政を 正さんと
義兵を擧げて 一朝に
身も刑場の 土と為り
英倫の テイレルは
我が本國の もろびとの
權利を張らん 其の爲めに
犠牲とこそは 爲りしなり
又瑞西や 亞米利加は
其の獨立の 戰に
羶風腥雨 屍を
山の如くに かさねたり
嗚呼自由の 爲めならば
身をも殺さん 戰場の
土ともならん 一點も
辭する心は あらぬなり
+---------+
(註)
■プラタス=ブルータス?
■ジヨーンケード=ジャック・ケイド?
■愛爾蘭=アイルランド
■エミツト=ロバート・エメット
■英倫=イングランド
■テイレル=ウォルター・ティレル
【自由歌(其三)】
▼
我を捕ふる 者あらば
我を捕へよ 咄汝
我を殺さん 者あらば
我を殺せよ 咄汝
百萬勢の 大軍も
來らば來れ 咄汝
群なす虎や 狼も
來らば來れ 咄汝
われは自由の 大君の
馬前に立ちて 動かぬぞ
死しぬ可んば 死せんのみ
生きぬ可んば 生きんのみ
或は殺され 或は又
いかなる憂さに あふとても
自由の君の 爲めならば
笑つて之を 受けんのみ
噫吾々の このむくろ
夙に自由の 大君に
捧げ置きけり 愛すべき
自由の君の 其の犠牲
殺されぬとも 死しぬとも
何惜むべき 此のむくろ
殺されぬとも 死しぬとも
何惜むべき 此のむくろ
|