【妻の死】
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糸巻きの糸は切るところで切り
光つた針が
並んで針刺に刺してある
そばに
小さなにつぽんの鋏が
そつとねせてあった
妻の針箱をあけて見たとき
涙がながれた
【宇宙の中の一つの点】
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人は死んでゆく
また生れ
また働いて
死んでゆく
やがて自分も死ぬだらう
何も悲しむことはない
力むこともない
ただ此処に
ぽつんとゐればいいのだ
【独り坐つて】
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生きたいのですと言へば
さうですかと言つて
死にたいのですと言へば
さうですかと言つて
暖く何処にでもゐて
冷く何処にもゐない
空気のやうになりたいと思ふ
【子供に言ふ】
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子供よ
ここへお坐り
お前はさつき石をもつて喧嘩をしてゐたね
さういふことではいけない
石をお捨て
人は少しでも自分と違ふ力をかりてはいけない
いつかも一緒に歩いてゐる時
お父さんがゐるんだぞと言つてゐたことがあつた
自分はああいふ時
本当はお前のそばにゐないのだ
あの子がお前より強ければ
強いやうに打てばいいと思ふし
お前が強ければ強いやうに
やはり普通に打てばいいと思ふ
勝つのもいい
負けるのも又いい
勝つても威張れないし
負けても威張れないものなのだ
いいか
わかつたか
【全世界を客観する姿勢】
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息は静かに
眼(まなこ)は開き何処かを見る
自分をめぐる無数の
人の意識がつくつた質や量などに
軽く触れ
口の辺りに笑みさへ湛へる
それは苦しく悲しいけれど
遠く親子の人情をはなれ
何とも言へぬ
自由と法則の調節をとる
其処はもう白色か青色か
最高もなく最低もなく
天上すらも
いつさい無く
寂しさと静けさと安らかさのなかに
万事を止めて個性なく
ゐる
【靄と沼】
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昏れるときの容子のとほりに
ひとりでに靄は溶けて
ほんたうに
溶けたまま
色はとれ
それに
音なども絶えて
たれも知らない遠い代の
匂のやうな休まりかた
無ささうにとも思へるし
また
有りさうにとも云へさうに
沼もやはり物おとをひそめ
涯などを無くして
ちつとも動かずに
薄いつやだけを保つ
【朧夜】
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空しいところに月はひとつ
幼いふうの色けをして
洵(まこと)に易しく托されてゐる
辺りはなんらの応へもなく
愚かなくらゐに忘れはてて
遠い距りに睡るやう
この世の沙汰はとうに絶えて
移るものすら覚られず
少しのこともない
心地もささいな彩りに
物の相(すがた)などは肌もやはらかく
やうやう
薄らみ想はれる
【河】
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ほしいままに久しくひらけて
噂のやうなものは伝はらず
跡方の知れない
遺されたやうな
にゆあんすとなって
涯もなく
入念に遷つてゆく
ひろびろとした
優れる光を間遠に含み
浅さのぐあいなども等しくして
工夫もなく触りながら
まの辺り
遷つてゆく
それは何といつたらいいのか
その後はただ祝ふばかり
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