【新情人】
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くれなゐそむる東雲の、
かなたにこゝろはせぬれば、
白波さわぐ「ばるかん」の、
出じまに夢はのこしつゝ。
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雲井はるけし「おりんぱす」、
「ぎりしや」の山に跡たれて、
千とせふりゐる島々の、
みそらに花も降らしゝか。
* * *
翡翠のまなこ清らけき、
美(よ)き技士(わざびと)のかひなには、
そゝぎてとらす橄欖(かんらん)の、
油にかをる鑿のあと。
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かれがかなづる「ばいをりん」に、
荒れたる獅子をしづむとき、
さとれ五百重の雲のへに、
興をもらせる「う゛えなす」を。
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さすがかはらぬわだつみの、
むかしと殘る浪模様、
春はしづけき水とりの、
うきねの夢もやすらかで。
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野に生ふまゝの民ぐさの、
朝夕すゝるましみづに、
おつる濁りもしげゝれば、
もつ花さへに十惡の。
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紫にほふあやぐもゝ、
かきやみだせる神のみ座、
月はつとめて澄みぬれど、
いづこに影やおとすらむ。
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こさゝが洞(ほら)に爪をとぐ、
魔獣がまなこ輝けば、
千代に一たび現化する、
星も下界におりかねて。
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何を汚すぞかいなでの、
「ぼんち」つくりのゑだくみが、
かぎり知られし「ぱれつと」の、
こゝろいやしき鳶色は。
* * *
たゞかりそめに彫(え)らるべき、
色のみ皎(しろ)き石膏の、
かしらにこむるたましひは、
操賣るべき神の像(かた)。
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祭りの贅のくさゞさに、
をこのねぎごとたはれ男が、
媚びてはさゝぐ光輪の、
浮きたる戀は寄するとも。
* * *
いのちさゝげん桂男の、
雲の通路中たえて、
いたづら臥の枕べに、
涙のつらゝ溶けなくに。
* * *
「ゑるろーろーず」色あせて、
春はいにけり「ぱり」の里、
「ろーま」をてらす秋づきの、
くもりは長し五百年。
【秋思客】
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もと是れ載筆觀光の遊にあらず、
俗眼俗趾、借問す這間什麼の
感興を得んとかする。
狗兒
晩稻(おしね)實れる小山田の、
露置く畦も白ければ、
今朝の命は惜まれて、
捨ても得せずに狗の兒よ。
木犀
小里さびしき長雨の、
ぬかりをたどる旅人の、
傘は菅かやまひさしに、
落ちて聲なし百里香。
鮒
水かさはまさる五百川や、
干沼の藺草花散りて、
あやなき闇のうばたまに、
陸(くが)こそ溯れもみぢ鮒。
水
小溝の堰を放たれて、
落足早し五十瀬川、
柳がもとのうろくづの、
栖(すま)にや淀まむ秋の水。
藻刈舟
河づら渡る聲冴えて、
君や足らざるわが舟の、
刈藻をなかば分たんに、
いざ宿せたまへ情郎(こひびと)よ。
鱸
むら雲迷ふ水の上、
蘆分小舟漂ふは、
濁らぬさきの片時を、
鱸(すずき)の味にとめんとか。
大河
雨を催ほす夕闇の、
河は流れのゆるければ、
九十九間(180m)は水ながら、
さやかなりけり岸の聲。
栗
ことし墾きしこの畑の、
あるじが許をおとなへば、
きのふ拾ひし山栗を、
すはや煮るなり賤が妻。
茸刈
行けかし松は若かるぞ、
落葉朽葉の深からば、
鎌もてかけよはつたけの、
いたいけ笠の落ぬまで。
(前四首常陸にて、後五首下總にて)
【あらぬ浮名】
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あらぬうき名の立たば立て、
水より清きわがこゝろ、
塵のにごりもなきものを、
立つとてなどか厭ふべき。
人目をつゝむくらまぎれ、
稻村影やなやのおく、
忍びてかはす仇まくら、
憂かるは人の戀なりし。
五月のそらの長雨(ながめ)して、
濁らぬ水とてなけれども、
岩のはざまや谷のおく、
苔にしたゝる清水あり。
わらは愚かの身なれども、
女子の道もいさゝかは、
知りてこそ在れ今更に、
惜からぬ名のあらめやは。
閨の板戸はゆるくとも、
籬(まがき)はよしやあらずとも、
心にしむる下紐を、
許すことかはあだ人に。
かりにかざれる笑眉をば、
何と見るらむしれもの等、
柳とうけてわれ在れば、
なめなることもいひ出でゝ。
憎しやわれをうき草の、
さそふる水のありもせば、
いぬべきものとひたすらに、
うたて心にはかりけむ。
われさへかくてあるものを、
引く手多かる身なるから、
正しき道をさす竹の、
君はふまへり一とすぢに。
よしや曇れる大空に、
その濡衣の干(ひ)がぬとも、
君とわれとのかくあらば、
あらぬ浮名の立たば立て。
【我がイヽゼル】
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つたなき手わざほめたまふ、
君がなさけのあつきをば、
はやも汲みけりさてこそは、
かくまで落つる涙なれ。
かくまで落す涙をば、
女々しと君は見たまふか、
女々しかるらんしかはあれど、
男の子のうちの男の子ぞと、
常にはゆるす身ながらも、
かくは女々しくふり落す、
涙の雨のゆゑよしを、
あはれと君も見給へや。
驚き顔にわがおもを、
守りたまふは其ゆゑの、
わかでおはすと覺えたり。
さらばわが君ねがはくば、
つたなき繪づら近よりて、
いまひとたびは見そなはせ。
青葉繁れる森影は、
あつき心をそのまゝに、
夏としかけりその森の、
こなたに立てる男の子をば、
君は誰とか見給へる。
われに似たりとの給ふか。
小川の水の清ければ、
冷けさいかにと忍ばるゝ、
世には脂も溶けぬべき、
温泉(いでゆ)といふもあるものを、
などてにかくは冷やけき。
このま清水の冷けきを、
忘れたまふなその水の、
ま中に立てる乙女あり、
そがひになりてありぬれば、
眉目(みめ)は見えねど黒髪の、
かくいつくしく肉付(しゝつき)の、
かくもゆたかに見えぬるは、
世にまたありとおもほえず。
男の子が顔にかぎりなき、
愛となやみを見給へね、
今しも動く唇は、
何をか語りかくるらむ。
かたりかくれどこなたには、
何のいらへもあらずとよ、
餘りといへばつれなきを、
君はいかにと見たまふぞ。
つれなき人を戀ふる身の、
かれがこゝろの苦しさと、
また悲しさは如何ならむ、
君は清けきこゝろより、
おろかとさみし給ふかや。
死するはかたき事ならじ、
死するにまさる苦しみを、
沸へもかねてひたすらに、
えとげぬ戀にあこがるゝ、
愚かの彼のあはれさよ。
しれにしれたるしれものよ、
慾より成れるうき世ぞと、
悟りてしばし森影の、
こゝらわたりに避けつゝも、
胸のほむらは消えずして、
わが今かける此繪をば、
美術の眞にかなはずと、
こぞりてそしるそが中に、
ひとりほめけむ情けをぞ、
せめて半ばは戀の上に、
分ちてこそとむさぼれる。
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