「天來詩集」
【孤鶴】
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砂白き 東海の濱、
鶴一秩@ 朝日に翔り、
大洋(わだつみ)の 萬古の浪に、
影富士の 影はゆらぐも。
末の世の 秋風たてば、
飛ぶ鶴の 影もとゞめじ、
宙゚の 昔語りも、
まぼろしの 三保の松原。
汝が厭ふ 街の塵も、
朝日には 天の白雲、
いざしばし 翼をとゞめて、
富士のねの 雪にやすらへ。
富士のねの 雪は清きも、
ゆく鶴は 歸り來らず、
鳴捨つる 一聲遠く、
波青し 三保の松風。
飛ぶ鶴の 翼しあらば、
天人の 宙゚なくも、
われもまた 富士を抱きて、
雲遠く 月にのぼらむ。
つばさなき 身を悲みて、
力なき 砂を踏みつゝ、
大洋(わだつみ)に 涙洗へば、
富士の山 朝日に高し。
【雨のまに/\風のまに/\】
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雲迷ふ 脊戸の川瀬に、
虹清し 夕日影、
雨白き 青葉の山に、
風遠し ほとゝぎす。
人しらぬ 田中の庵(いほ)は、
芭蕉葉の 雨もさわがず、
露眠る 柴の戸あけて、
吹く風も 入るがまに/\。
吹く風は 雨を運びて、
我庵に 來りつ去りつ、
降る雨の 絶間/\に、
夕日影 寂しく照りつ。
友をおもふ 芭蕉の窓を、
急しく 走り過ぎしは、
釣りしつる 村のわらべか、
酒買ひて 歸へる小僧か。
よしさらば 青田をこえて
山寺の 門をたゝかむ、
夕日さす 柴の戸あけて、
我庵は 雨のまに/\
風のまに/\。
【君が家】
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松風に 雨晴れて、
山青く 水清し、
簑ほすは 誰が家ぞ、
螢飛ぶ 竹の村。
白鷺の 飛行くは、
葦の間の いさゝ川、
わがしたふ 笛の音は、
月明(ちか)き 君が家
【大路の雨】
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急がしき車の音も、
いつしかに眠げになりて、
夕日照る都大路に、
花賣の聲も細りぬ。
玉だれを重げにあげて、
氷賣招くは誰れぞ、
風なきに浮立つ塵は、
春の野の霞に似たり。
細路次の柱に倚りて、
愛らしの我子と共に、
我夫(つま)の歸りを待てば、
世の中の暑さはしらず。
ねんねせよ、此の子はよい子、
よい子には何をやらまし、
水ぐるま袂に入れて、
父樣(ととさま)も歸り來まさむ。
いかばかり暑ければとて、
なく子には何をもやらじ、
父樣は車をひきて、
熱き砂踏むとしらずや。
急がしく水うつ人の、
手をとめて空を仰ぐは、
うれしくも富士の高嶺に、
あま雲の起るなりけり。
ねんねせよ、此子はよい子、
ねんねしておほきくならば、
父樣の車をひきて、
勇しく大路を走れ。
あれよ今、夕日は消えて、
家々の軒のすだれに、
そよ風の動くとみれば、
はら/\と雨は降り來ぬ。
夕虹の雫らぬれて、
松高き阪のほとりを、
笑ましげにかへりきますは、
誰が家の父樣ならむ。
父樣の歸へられしまで、
おとなしく留守をしたれば、
走りゆく花賣呼びて、
いざ買はむ花のいろ/\
撫子の花。
【雪夜獨嘯】
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木枯しの雲追ふ影も、
遠山の蔭にかくれて、
ふくろなく落葉の里は、
夜すがらの雪に埋れぬ。
旅の身の寐覺の門を、
かすかにも音なふ聞けば、
風にあらず、落葉にあらず、
これやこの山寺の鐘。
われひとり簑を拂うて、
其音の在家を訪へば、
かつてみし瀑も眠りて、
なく猿の聲も聞えず。
鐘樓の足跡は消えて、
はた/\と苔おつる窓、
番僧がうたゝねの月に、
人の世の千里(ちさと)の雪の
夢未だ覺めず。
【誰が家の子ぞ】
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秋の田の 月は殘りて、
村里に 烟たつみゆ、
いざ問はむ、落穂を拾ふ
誰が家の子ぞ。
かのみゆる野寺の森に、
父母はおはすと聞きつ、
夜な/\のうれしき夢を
たのむばかりぞ。
我家もありとは聞けど、
秋風にかげもなからむ、
よしそれも、今は落穂を
拾ふわが身ぞ。
名を問へば名はなしといふ、
世にくしき子にしもあるか、
稻村の霧にまぎれて、
ゆくへしれずも。
たゞひとり涙をのみて
今もなほ落穂拾ふか、
思出の田の面寂しく
月冴ゆるとき。
【闇夜默座】
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默念の 闇の夜に、
雨もよし、風もよし、
風來れば 闇淺く、
雨細し 窓の竹、
風去れば 闇深く、
雨遠し 庭の花。
【わび人】
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鴎遊ぶ磯邊の松に、
古わらじかけしは誰れぞ、
砂の上に殘る足跡、
月清き波に洗はる。
そよ/\と浦吹く風に、
聲細く歌ふは誰れぞ、
鳥わたる島の彼方に、
わび人の船やこぐらむ。
たちまちに松に聲あり、
野や山や黒雲を吐く、
稻妻は海に突入り、
捨小舟傾きはしる。
たちまちに風吹きやめば、
夢のごとく空は晴れけり、
打わたす波路の末に、
さりげなく鴎ぞ眠る。
世を思ふ涙の袖は、
月を洗ふ波にもぬれつ、
わび人は船をも捨てゝ、
雲に乗り月や踏むらむ。
【古塚】
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村里は雪に埋れて、
犬の聲かすかに聞ゆ、
星うすき大竹原に、
あやしくも塚白く立つ。
程近き渡場こゆれば、
渡守のわれに語らく、
かの塚の主は誰れぞと、
我村に知る人もなし。
しかすがにこぼたざれども、
誰れありて花も手向けむ、
旅僧が念佛の聲も、
彼處にはかつて聞えず。
或夏の念佛講に、
老人のつぶやく聞けば、
そのむかし彼處の籔に
世を厭ふ人や住みけむ。
我ひとり疑ふらくは、
旅人や彼處に眠る、
故里の月を見捨てゝ、
旅の世の旅に果てつる。
あはれかくも語るも聞くも、
後の世の誰が涙ぞや、
かの塚を築(つ)きけむ人も、
露深き野寺に眠る。
またも飛ぶ雪に吹雪に、
竹原は見えつ隠れつ、
つれなくも流るゝ水に、
雪重き袂をしぼる。
あはれこの浮世の旅に、
別れては今日を限りぞ、
いざ今宵語りあかさむ、
我家は燈火あかく
雪靜かなり。
【樂しき聲】
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鎭守の森の後ろより、
樂しき聲ぞ聞えける、
川瀬を走る帆の上に、
一番星をみつけたり、
明日貰ひたき褒美には、
水にくる/\水ぐるま。
田中の岡の此方より、
うれしき聲ぞ聞えける、
山邊をかける鳥の上に、
二番星をばみつけたり、
明日貰ひたき褒美には、
風にくる/\風ぐるま。
蚊遣火細き小窓より、
やさしき聲ぞ聞えける、
隣の籔の小蔭にて、
三番星をひろひけり、
明日貰ひたきほうびには、
星樣かくす絹張子。
母と添寐の手枕や、
昔にわれもかへれかし、
天の河原もさ夜更けて、
風澄みわたる村里に、
輝きおつる流れ星、
誰が懐にかくるらむ。
【破笠】
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晝寢せし 麥生の雨に、
家もなし 蔭もなし、
破れ笠の 急げども/\、
あはれなり 旅の僧。
急ぎゆく 明日の山路に、
虹高し 花の雲、
たゝずめば、今朝の川瀬に、
聲長し 棹の歌。
【蝉の聲】
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夜露散る軒端の桐に、
やり水の音を亂りて、
朝な/\
さわかしの蝉の聲。
入日さす外山の松に、
吹く風の音を亂りて、
夕な/\
さわかしの蝉の聲。
桐を追へば松の葉末に、
松を追へば桐の葉蔭に、
及ばじな
里の子よ釣竿も。
秋も更(た)けて松風寒く、
桐の葉のこぼるゝ朝、
里の子は
「今いづこ蝉の聲。」
其の夕べ外山に遊び、
月影に松をけづりて、
「里の子に
殻だに殘せ秋の蝉。」
【孤蝶】
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みずや、時雨におはれては、
野路の落葉も迷ひ入る、
森の小蔭のしら菊に、
縋りしまゝの孤蝶あり。
莊子が夢の殻ならば、
魂はいづこをかけるらむ、
やがてぞ晴れし空高く、
月に消えゆく風のこゑ。
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