「序にかへて」
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わが盛れる夢のうまざけ
盃にあふれみちたり
しろじろと月のウオツカ
ほのぼのと曇るシエリイ
さびしさはあふれこぼるゝ
盃の夢のうまざけ
わかうどよ灯かげ靜かに
ともどもに酌みて醉はずや
【水のふるさと】
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水のふるさと うろくづは
波のふすまを みなかづく
蒼き夢路の はかなさに
なみだながしてさまよはゞ
千尋の底に 珊々と
眞珠は 光り失なはむ
しづかなれ 水のふるさと
【今戸橋】
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黒き外套ふかぶかと
椋鳥の身をつゝめども
すみだ渡つて來る風が
昔しのべとそとさゝやけば
落つる涙をなんとせう
今戸の橋の雪あかり
昔ながらの夕ぐれを
やるせない眼にながむれば
翅が冷えるかあれ都鳥
波のまにまに飛ぶばかり
【窓の灯かげ】
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わが住める町の家並の
窓五つともしび五つ
宵闇にひかりをなげぬ
うすうすと寒き灯こそは
やすらけき老の侘住み
ほのぼのとあでに染めしは
戀知りのひとのかくれ家
あかあかと澄める灯こそは
こと足りてたのしきめをと
かゞよひてときめく灯こそ
富を追ふ毒の花園
四つならぶ家並の末に
さめざめとわが泣く窓の
灯の色よありとしもなし
【すみだ川】
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すみだ渡るは
さびしいものよ
心はろばろ身はひとつ
わたるすみだに
かはりはないが
けふは波間の影ひとつ
【雨】
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雨が降ります
今戸の橋に
けふも明けたとさめざめと
雨が降ります
慶養寺の社に
けふも暮れるとさめざめと
【待乳聖天】
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待乳聖天あら~さまよ
思ひ出草に
詣らりよか
思ひ出草にまゐるなよいが
心あら~
身も殺ろそ
【うそ】
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うそのなさけに
ほだされし
ほんにおまへは
おろかもの
壁にうつりし
影を見て
さびしと云ふは
得手勝手
【春の旅】
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つい今のさき
知つた人
下りてしまへば
知らぬ人
たゞ乗合のあだめきに
汽車はゆくゆく
春の旅
【おさがり】
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窓がぬれそろ お降りに
ぬれてさむそな
汽車の窓
そさまの胸も
つめたかろ
霰小紋の春すがた
【かんぜより】
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無理は男のつねながら
ひとの心もしらかみや
よつてくだんのかんぜより
ぢれたへうしのそらどけと
知つてゐながらきれよとは
てもあんまりな云ひがゝり
えゝなんとせうぜひがない
よりをもどしたその上で
いつそこんどはこまむすび
それがよいよいよいやさ
【生きわかれ】
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お酒三本 盃二つ
コールビーフにハムサラダ
春によく似たあたゝい
師走の宵は更けたれど
さてなんとせうこゝを出りや
右と左へ生きわかれ
【影法師】
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逢ふた影ならわかれにやならぬ
添ふた影ならはなれにやならぬ
さびしがるまい夕月夜
いつそひとりで どこまでも
踊れ 踊れ 影法師
ひろい夜道を どこまでも
踊れ 踊れ 影法師
【小鳥】
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小鳥よ 小鳥よ なにをしに
月夜の園におきやるぞ
花つやゝかのかゞやきに
小鳥よ 小鳥よ なにをしに
闇夜の園におきやるぞ
蕊をこぼるゝ香高さに
小鳥よ 小鳥よ なにをしに
風吹く園におきやるぞ
花が散ろかと えゝまあそゞろ
【歸雁】
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春が來たとて
雁が鳴いて歸る
遠い野山の空かけて
泣いてゆく身に
かはりはないが
わしのゆくては
雲ばかり
【月夜鴉】
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月夜鴉がなにさみしかろ
どうで阿呆のにくてぐち
木々の夜風がなにさみしかろ
どうで空吹くよそごゝろ
更けた雨夜がなにさみしかろ
ぬれる相手のないひとり
【十九】
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わたしや十九よ
でもねえ
男なんぞは大きらひ
あれ今朝かけた
葛ひきの
白くも寒くも
知ることか
【合歡】
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ねむの寢顔の
愛らしや
蜻蛉がのぞく
つぅいつい
ねむの夢路は
もゝいろか
枝がおもかろ
眼をさませ
【月見草】
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誰に見しよとて
月見草
宵の化粧を
することぞ
闇のふかさに
ほろほろと
露のなみだが
いぢらしや
【紫陽花】
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雨が降るとて
色かゆる
まあま うわきなあぢさゐ
空が蒼いとて
色かゆる
まあま うわきなあぢさゐ
【らくがき】
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おまへと わたしの
名がふたつ
黒塀に書いて あつたとさ
どこに
どこに
どこか知らねど
うき世のすみに
さあさ
【男より】
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うそぢやないぞへ
今日このごろは
戀もなければ
愚痴もなし
さむい夜風に
街へ出て
お酒飲むのも
出來ごゝろ
【女より】
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ひとりがよいと
口ぐせに
云つてゐながら
時雨降る
宵々ごとの茶碗酒
落すなみだは
えゝ なんぢややら
【千鳥】
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雪のすみだの屋形船
帶がとけそろ
博多の帶が
戀路の闇に帶どめの
銀の千鳥が
飛ぶわいな
【河原の月】
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河原の月にすゞむなら
銀のかむざしやさゝぬもの
ぬけて落ちたら
ちやりゝと鳴つて
ひとが見かへろ
はづかしや
【夜半の寢ざめ(1)】
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ひとり寢の
夜半の寢ざめぞ
はかなけれ
戀しきひとの
おもかげは
闇にありても
ほゝえまず
【夜半の寢ざめ(2)】
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チャルメラの
呪ひの歌も
更けしかな
「昔戀ひにし
ひとり ひとり
仇しをとこと
みな寢たり」
【夜半の寢ざめ(3)】
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音高く
柱時計は
四つ鳴りぬ
眠りかねたる身を
あはれみて
枕時計よ
もの云はぬ
【夜半の寢ざめ(4)】
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このまゝに
いつそ起きよか
また寢よか
ひとを思ほか
よしにしよか
えゝ
寢ざめごゝろのまゝならぬ
【虫q】
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やり虫qの
虫qの戀こそ
ほのかなれ
ふたりが中に
ひらひらと
落ちてくるまを
いろにでて
【まり】
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袖ふかく
かくせし毬を
見たきかな
かゞれる中の
くれなゐの
糸の亂れの
ありやなしや
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