詩集『金盃』より
【新春十勝原頭に立ちて】
(某氏のものせる畫に題す)
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橇作(つ)けし、道の一條(すぢ)、
涯遠み、雪に起り、
雪に消えたり。
森こそは、
ひとつあれ、
遠方(をち)にうかびぬ。
たゞひと面や、しろがねの、
眩ゆき燦陽(はなび)垂れ映えて、
春よ、大陸(おほくが)。
いま、紅靄ぞ雪にもゆる、
さはれ、冷(ひえ)、
骨徹(とほ)す。
まつげも凍る、
六十里、われのみぞ、
旅にして立つ十勝原。
【秋晩十勝河畔に立ちて】
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落日纎(ほそ)照る十勝河
紅樹彩湧く両林の、
散り浮く葉舟、靈誘ひ、
行くよ、ゆら/\、詩の扉に!
ゆらぎ荒さの靈冷や
穗彩の波の碧透き
縫繪浮くかも、滑ら石
とろろ、燕脂のしぶきする
六十間の遠岸(をちきし)ゆ
「暮」を案内の名なし鳥
あれ、金銀の揉瀦(やわはかぜ)
舞へば紅葉のあられして
燃ゆる緋うすれ、銀鼠(はいがね)の
雲、今、森と際を無(な)み
淺宵(さよひ)寂びぬる氣の下り
水上下流(みなかみしも)も暗青(あんじやう)や、
「忘れじ夢の跡追はむ
人」の風情をさながらに、
みだれ葉縫ひて歸れ鳥
と思へど搖(は)らず、梢塒(すゑねぐら)。
さゝやぎ恍(と)くる十勝河
薫(くゆ)る廣野の草つゝみ
コタン呑み來し大陸(おほくが)の
暗(やみ)の帳ぞ領(りやう)しぬれ。
【街の夜雨】
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社の歸り、傘はあらぬを
インバネス被冠(かつ)げる身なり。
待たるゝも見むもあらねば
かへり見の眼にいる街や
うつゝなの思ひを湧かす。
そを興にわれはたゝずむ。
肩埋めて木皮衣(あつし)をくだる。
蓬髪を雨の雫す。
後姿(うしろで)の、メノコも行けり。
菰被(かつ)ぎ駒の背ながら。
濡(うば)れつゝ、沈想(しづ)める樣に。
すれあひし人もありけり。
濡れ砂利をきしめく車。
とぼ/\の馬の足音や。
それもはや、仄に燿(かゞ)えし。
暗の眼の彩角燈も。
横丁にそれぬる、今は。
指ながら人はあらざり。
み膝をし枕の人は。
華やぐを頬にや含む。
敗殘の種族人(いろくづびと)は。
慈悲光(みひかり)の聖園にや趨る。
倦んじたる、あゝ、初閨(うぶねや)の。
夢ならぬ夢も見あらむ。
種夢(いろゆめ)のかをりをつゝむ。
柾(まさ)屋根はむせび音艶(ねえん)に。
暗内(やみぬち)ゆ吾(あ)にぞほの寄る。
軒燈(のきのひ)はをはりのはえと。
おとろへの、雨街(あまち)をぼかす。
三つ四つの――それも消えぬる。
おもひよりさめたる眼して。
遠見れど 直ぐなる廣路。
両軒の幾十の遠方は。
ものあらぬやうにくろずみ。
「眠~」の奇しみ力に。
世はなべて覺(おぼえ)ぞ無かる。
こゝはしも。大陸(おほくが)めける
ひろ原に、新なる街の
帶廣や。その大通り
九丁目ゆ 東見たる――
春雨の夜の十二時。
吾はやがて戸をあけなまし。
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