小山内薫

おさないかおる(1881-1928)

広島県生まれ。1906年東大英文科卒。演劇人として高名だが、初期は抒情詩人としても注目された。詩人
としては‘なでしこ’の号もある。在学中から内村鑑三や島崎藤村らの影響の下に詩文を発表。1905年に
詩集『小野のわかれ』を刊行。青春の喪失感と孤独とを34編の詩に盛った。/「日本現代詩辞典」より



【蚯蚓の歌】

花あこがるゝ詈(ののし)りて
酒飲みあへぐ嘲(あざけ)りて
戀はみながら汚れつと
もの知るがごと眠れる夜
   蚯蚓(みみず)は只(と)ある歌をうたへる

近寄れば花うるはしう
飲みさせば酒あまくして
戀もきよしとおぼえては
解(げ)したるがごと眠れる夜
   蚯蚓は同じ歌をうたへる

花くちづけて蘂(しべ)にがく
酒瓶のそこ滓を見て
人こそけがせ世の戀と
悟れるがごと眠れる夜
   蚯蚓は同じ歌をうたへる

あだには触れじ今は花
あだには飲まじ今は酒
戀聖(きよ)かれと祈祷(いのり)して
神知るがごと眠れる夜
   蚯蚓は同じ歌をうたへる

【鳥籠】

『大空の鳥と生れて
籠ひとつ守る苦しさ

『花は待つ友どち歌ふ
いかでわれ牢獄(ひとや)逃れむ』

  (翼ある鳥は逃れて
  翼なき籠は残りぬ)

『君去りて何の清水
君去りて何の摺餌ぞ

『君なくてわれ生命なし
君なくてわれ塵あくた』

  (翼なき小籠は椽(えん)に
  舞ひ戻る鳥を待つなり)

『苦しとて歌もうたへり
狭しとて舞もまうたり

『雨知らぬ誰が情ぞ
飢知らぬ誰がめぐみぞ』

  (翼ある小鳥は空に
  美(うま)し籠いつか見出でむ)


【川やなぎ】

てり日でり続ける十日
川やなぎ川に云へらく
「雨降らぬ空ゆゑなれど
わが枝もわが緑葉も
塵に染み土に染まりて
むさくろき幹や梢や
かゝる身を君に映して
わがこゝろ心苦しき」

夕立の来れる夕(ゆふべ)
川やなぎ川に云へらく
「すは今ぞ身もすがすがしく
うつさな清き姿を」
よろこびて頸(うなじ)をのせば
いま川は濁りて流る


【繪すがた】

(一)戀の泉

花と花といかに添うとも
この薫とかの薫と
まじはりて春をなさずば
誰(た)が心匂ひ乱れむ

絃(いと)と絃いかに触(ふ)るとも
この音律(ねいろ)とかの音律と
まじはりて楽をなさずば
誰が胸か響き動かむ

この唇(くち)は接吻(くちづけ)知らね
この耳は密語(ささやき)聞かね
この腕(かひな)人を抱かね
この眼(まなこ)人にそゝがね

奥山の戀の泉を
迸る胸のまことは
我が胸の水流(ながれ)に逢ひて
志ろがねの響をあげぬ