序
遥けき岸を恋ひそめて
理想(おもひ)の島を夢にみし
楫あげむとていくそたび
われは磯辺に立ちにけむ
花藻のゆらぎさだまれば
また海鳥の羽ばたきよ
潮さわぎて風あれて
夕日は波にながれたり
砂(いさご)に落つる涙もて
小さき歌はしるしつゝ
黄金を浴びて過ぐる帆に
将来(のち)の運命をうらなはむかな
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(註)
■楫(しゅう)=原文は手偏(揖)+戈(ほこづくり)
=かじ、かい=舵・櫂のこと。
【声】
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鴎むれ飛ぶ岩の上
のぞみに満ちてわが立てば
あしたの風はさゝやきぬ
「夢みたまへよあはれ君」
入日さしそふ島のかげ
思ひしづみてわが行けば
ゆふべの波はさゝやきぬ
「夢みたまへよあはれ君」
風と波とをよそにして
思になれし室(へや)のうち
何とはなしに額づけば
たふとき声はひゞきゝぬ
波よりもはた風よりも
まことの声はたかきかな
「夢みるなかれ夢みるな
夢よりなれる人の子よ」
【村】
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朝の香たかき岡に立ちて
とよめく村のこゑきけば
むかしのわれにかへるかな
青葉につゝむ紫の戸の
中よりひゞく梭の聲
朝燒うつる里川の
末にはめぐる水車
鍛治(かぬち)の鎚にまじりつゝ
騎兵の蹄とゞろくよ
黍つむ車入りはてし
森よりおこる銃(つゝ)の音
賑はしきかな朝のこゑ
豊かなるかな朝の村
あゝ故郷もかくありし
【汝が心を】
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汝が心を信ずるなかれ
夜の神闇の手高う拡げ
牧場も古沼も森も谷も
一つ沈黙(しじま)にかへしゝとき
くるしき夢をさ霧のめぐり
おもたき額を夜の気のうたば
汝の勇気はみるみる消えて
汝は恐怖の奴隷とならむ
汝が友をば信ずる勿れ
共にしあらむの契はかたく
手をとり入りたる広間の中
金燭銀燭燃ゆるのとき
一たび舞踏の楽の音ひゞき
小さき唇来てさゝやかば
汝にそひたる汝が友は
忽ち汝を離れて去らむ
【白鳥】
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夕やけに翼をそめて
雪よりも白き水鳥
池のおもに今ぞ下りくる
葦かげに舟さしかくし
独わがうかゞひをれば
いひしらぬ思ひぞおこる
雪しろき山のあなたに
一くきの笛手握りて
さまよひし野のあさぼらけ
星消えて花紫に
鳥のこゑ水のさゝやき
人の世のあゝものならず
藻の花のしろきをわけて
しろがねの楫(かい)とる少女(おとめ)
まぼろしに見てしおもかげ
わが笛に舟はより来ぬ
わが笛を少女は吹きぬ
かくてわれ我等となりぬ
あさなあさな舟さしよせて
われ漕げば少女は吹きぬ
われ吹けば少女は漕ぎぬ
あゝ時よ何の力ぞ
おのが手に人の手はなち
楫はなちこゝに幾年
水草の花くひもちて
わが方によりて来る鳥
その人の使者かあらぬか
魂かあらぬか
詩歌集『銀鈴』より
【往くべきもの】
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往くべきものを往かしめよ
運命(さだめ)を人はいかゞせむ
地(つち)におちゆく樫の實は
神も梢にかへし得じ
【孤獨】 作/尾上柴舟
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幸ある人と君はしも
戀人の手に急ぐらむ
われたゞひとりしかは云へど
われ惠むもの伴へり
そは碧なる大空よ
花にかざれる牧場よ
千年ふりたる森の夜を
さびしげに啼く鶯よ
そは靜なる白雲よ
生けるが如き水の音よ
高フ畑にたつ波よ
かろく飛び交ふ群鳥よ
薔薇なす人の唇に
腕(かひな)に君が息ふとき
ひとり上衣を夕風に
打ちまとひても我は行く
さまよふ人の影たえて
鳥はねぐらに歸りにし
暗の夜すがら光ある
夢見ながらもわれは行く
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