【貝殻】
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一里南に
とゞろく海を知らざりし
いとけなき日の汐風の
くしき香を
ふる里の砂地の道の
砂の中より掘り返へす
子供がもてる
いと小さき
貝殻よ1912.11
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sea-mew よ 叫ばずや
嘲笑のなが眉ぞ小氣味よき
かゝれとて海や渡りし
逡巡のむろの「どん底」
執拗なスラブかぶれの
宿命の蛆の蠢めき
sea-mew よ 叫ばずや
嘲笑のなが眉ぞ小氣味よき
1912
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「靜かなる曙」のかの友達の
死骸の如く美しき
雪國の彼誰時はしたしたと
闇の喪服にまかれゆく
淡き窓をぬけ出て
黄昏の胸にさ迷ふ
わが魂もまかれゆく
ビードロの空氣に包まれた
山々の頂に流れたる
寒い 寒い
シトロン色の薄明り
然れどもやがてそこには
ボリス ザイチエフの星チカチカとまたゝきて
わが魂の道を照しぬ
みよ 淡き窓には
暖かき燈火 軟かに匂へり
1913.1.6
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晝間からの風立ちに
吹かれてゐる盆の月よ!
ごうごうといふ町の響の
俺はいまあの邊を歩行いて來たのだ
ぞろぞろと綺麗な人は
通るけれども
そこいら中にみちみちてゐる筈の
あいつは何うしたらう?
俺はいま膝をかゝえて
椽側にしやがむでゐる
つまらなく吹かれてゐる
孤獨な月よ!
頭がひしやげさうに痛むで
俺はなんにも出來ない
1913.7.15
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つツ走れ!
炎天の光の中を
くるめく頭脳にめぐる思想の
メロディーは盡きず
日の道に當る地軸のゆるぎに
響き出す
俺はいま
メムノンの柱か
つツ走れ!
1913.7.16
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またけふも
頭のひゞれのひろがりに
崩れる蒸し雲
みろ!
こんなかぼそい莖のうてなに
眞つ赤な花が燃えてゐる
1913.7.16
【午後】
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突き當りに燃え立つ雲が
ジユツと燒鏝をあてた通りを
かれはまツすぐにつきすゝむ
土用の午後の人通りははたちと絶えて
じりつく光に寂滅の響くゞもり
底なくみ淀むだ空は
死の影を沈めてまどろむ
けれどもつきすゝむかれの
汗のみゝずに血走るかんばせは
なほものみなの生けるあかしか
窒息した空氣の中に
じりじりと爆裂の力をはらむ
1913.7.21
【書斎にて】
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どよめきよするうめきに
おのゝきやまぬ障子よ
力は内に漲れり
障子よ 障子よ
盾なる障子よ
いま たゝかひぞ たけなはなる
1913.9
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見よ いまし 他界の空に
濁れる血汐の旗じるし
日は死せるか
夕靄のかけむくは
みだれとぶ蝙蝠の梭に織られて
なやましき眠り
野を襲ひぬ
夜は深し
しじまをめぐる
さこはかとなき水の調べに
野のぬかは
月代だつか
仄蒼き光のまたゝき
聽け いまし 闇の底より
甦る野のうたを
1913.10.14
【低唱】
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白壁に息づく闇は
ゆけるすべてをつゝみたり
朽葉柳 みづにしづきて
古き水死の月を悼めば
もがりのうた
さすらふ橋や
たましひはそがひのくにに
あこがれの姿をうつす
1913.10.14
【野はゆるゝ】
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野はゆるゝ
野はゆるゝ
大いなる響の中
日はなごみ 藻の影に
ちろめく麥魚(めだか)と
こゝろ 波立ち
むせびゆく
小川のこもり音
冬はいま喘ぎつゝ
ためらへる足もと
一つまみめる草に
ふとめぐる匂ひのむた
野はゆるゝ
野はゆるゝ
よろこびのきざし
はた なやみの波打つ如く
1915.2.18
【風景】
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松の木を持つ風景が
人と犬とを載せたまゝ
やんまに曳かれて舞ひ上つた
中空へ
そこからぞろぞろ
百姓が仕事に出てゆく
落ちて來たのは自動車である
轉覆 崩潰
坂路に血が流れた
慥(たし)かにこゝだと思ふのに
未曾有の朝の光の中で
風景がすつかり變つてゐる
○
憂鬱の
おもくるしさ
このまゝ
化石するまで
この窓を
動くまい
けれどこの
憂鬱は
ときどき
圓い林檎になる
それを
手のひらに
のせてみる
かがやく卓布の
雲がわく
憂鬱の
林檎が
傾く
○
巻紙の
流れは
ひらがなの
をんなである
返信は
金ペン
タンポゝに似た
片假名の
花も咲く
すると
心臓の
インキ壺から
するどく舞ひ上る
sky-lark
横文字の
歌ひ手
1921.3.14
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