【志賀直哉へ】
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志賀の旦那は
構へ多くして
作品が少ねいや
暇と時間に不自由なく
ながい間考へてゐて
ポツリと
気の利いたことを言はれたんぢや
旦那にや
かなひませんや
こちとらは
べらぼうめ
口を開けて待つてゐる
短気なお客に
温たけいところを
出すのが店の方針でさあ、
巷(ちまた)に立ちや
少しは気がせかあね
たまにや出来の悪いのも
あらあね、
旦那に喰はしていものは
オケラの三杯酢に、
もつそう飯
ヘヱ、
お待遠さま、
志賀直哉様への
諷刺詩、
一丁、
あがつたよ。
【佐藤春夫へ】
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男ありて
毎日、毎日
牛肉をくらひて
時にひとり
さんまを喰ひてもの思ふ
われら貧しきものは
時にさんまを喰ふのではない
毎日、毎日、さんまを喰らひて
毎日、毎日、コロッケを喰つてゐる
春夫よ、
あしたに太陽を迎へて
癇癪をおこし
夕に月を迎へて
癇癪をしづめる
古い正義と
古い良心との孤独地獄
あなたはアマリリスの花のごとく
孤高な一輪
新しい時代の
新しい正義と良心は
君のやうな孤独を経験しない
春夫よ
新しい世紀の
さんまは甘いか酸つぱいか
感想を述べろ。
【島崎藤村へ】
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こゝな口幅つたい弱輩愚考仕るには
先生には――夜明け前から
書斎にひとり起きいでて
火鉢の残火掻きたて
頬ふくらませ吹いてゐる
嗜好もなく望みもなく
たゞ先生の蟄居は
歴史の記録係りとして偉大であつた
先生はすぎさつた時に
鞭うつリアリストであり
新しい時をつくる予言者ではない
こゝな口幅つたい弱輩愚考仕るには
先生には訪問者を
玄関先まで送り出し
ペタリ坐つて三つ指ついて
面喰はせる態の
怖ろしく読者を恐縮させる
『慇懃文学』の一種である。
【室生犀星へ】
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現実に
これほど
難癖をつけて
これほど
文句をつけ
これほど
しなだれかゝつて
これほど次々と作品を
口説き落せば達者なものだ、
あなたは
果して神か女か、
神であれば
荒びて疲れた神であり
女であれば
暗夜、頭に蝋燭をともして
釘をうつ魔女だ
しかし藁人形は悲鳴をあげない
呪はれる相手も居まい、
小説に苦しむたびに
幾度、
庭を築いては崩し
幾度、
石を買つては
売り飛ばし
老後の庭園を
掘つくりかへして
楽しんでゐるのは
御意の儘だ
それは貴方の庭だから。
【正宗白鳥へ】
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右といへば
左といふ
山といへば
川といふ
行かうといへば
帰るといふ
御老体は天邪鬼
人生をかう
ヒネクレるまでには
相当修業を積んだことでせう、
歳月があなたの心を
冷え症にしてしまつたのか
痛ましいことです
あなたの正気からは
真実がきけさうもない
ちよいと
旦那
酔はして聞きたい
ことがあるわよ。
【林芙美子へ】
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有名なる貴女の人格に
触れることをおゆるし下さい。
私も多少の人格をもつてゐる、
そしてそのいくらもない人格を賭けて
あなたのことを歌ふのだから、
あなたの芸術上の呑んだくれの
性格は出版記念会の
余興の上には一層それが発揮される
主賓としての貴女は洋食皿をもつて
泥鰌すくひを踊りまはる
それは良いことです
来賓を喜ばすことは
だがもしあなたが踊りのために
くるりと尻を捲つた
長襦袢が
余興のために前もつて着込んで
きたものであつたとしたら惨めです
あゝ、なんて細心な一見苦労人らしい、
事実はレビューガールの媚を想ひ起させる、
あなたは少し苦労をしすぎましたね、
前もつて、たくらんだ計画した
感傷性の売文家よ
だが、再び貴女に九尺二間の長屋に住めとは言はない
人生への追従をうち切つて下さい
面白がつてゐる読者に面白がらしてはいけない
世界の中にたゞ一人
私だけが面白くない貴女を期待してゐる
不機嫌な反逆的な貴女を待つてゐる。
【谷崎潤一郎へ】
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人生の
クロスワード
人生の
迷路を綿々と語る
大谷崎の作品は
はばたく蛾
鉛を呑んだ蟇
重い、
重い、
寝転んで読むには
勿体ないし
本屋の立読みには
長過ぎるし
読者にとつては
手探りで読む
盲目物語だ
作者の肩の凝り方に
読者が御相伴するのも
よからうが
書籍代(ほんだい)より
按摩賃が高くつきさうだ
先生の御作は
そやさかいに
ほんまに
しんどいわ。
【中野重治へ】
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裾の乱れを気にばかりせず
気宇濶達の小説を書き給へ、
『小説の書けない小説家』
『小さい一つの記録』
などと妙に遠慮ぶつた標題をつけず
誰かのやうに『風雲』と大きく出るさ、
君も詩を掻き廻して
小説へ逃げて行つた前科者だ、
少しは詩の手土産を
散文の中で拡げるさ、
棒鱈のやうにつゝ張らずに
田作(ごまめ)の様にコチコチにならずに
少しは思想奔放症でやり給へ、
狭心症は生命を縮めるよ
釣銭のくるやうな
利口ぶりを見せないで、
馬鹿か利口か
けじめのつかないやうな
作品を書き給へ。
【武者小路実篤へ】
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金銀の佩刀、そり打たせ給ふところの
武者小路実篤卿よ
ここに下賤の一詩人が
涙をふるつて諌言申す、
人間を『日向の村』へ追ひやつて
孤独と寂寥に悩ませるとは、
あゝ
つらい、つらい、
山の向うには歓楽の灯があると
新しい村の村民たちは
嘆いてゐるだらう
あなたの若いこのあやまちが
トルストイにとつ憑かれた、
あとは世間態と意地で
村の理想を細々とつないで
ゐるわけでもあるまいが、
早く村の解散式をやつておあげなさい。
【武田麟太郎へ】
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あなたは他人に
好色の戒めを仰言(おつしや)るから
私はあなたに文学の戒めを申しませう
あなたはリアリズムの
媒妁人で
雑誌『人民文庫』で
ムコを集めて
ヨメを探してゐるが
写真屋のリアリズムぢや
写真結婚は恨まれますよ、
さう詩的精神を
眼の仇にしないで
修正結構
ヱヤブラシ結構
見合の写真は
精々綺麗に願ひます
一緒になつてしまへば
どうせ馴れ合ふ性格だらうから
私があなたを諷刺したら
只では置かないと
茅場町会館の六階で
仰言つたさうだが
こんな汚らしい首でも
御所望とあれば差し上げたい
もつとも持参する誠意がないから
そつちから下界へ降りて来い。
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