野川 隆

のがわたかし(1901-1944)

千葉市に生まれる。北園克衛(橋本健吉)、稲垣足穂らと『ゲエ・ギム・ギガム・プルル・ギムゲム』という
ダダ系の同人誌に加わった詩人として知られるが、やがてコミュニズムに転換し、ナップ(全日本無産者芸
術連盟)に参加。1935年、治安維持法違反で逮捕される。1937年、妻とともに満州に渡り‘貧農中心主義’
的な「
合作社運動」に接近した。1938年、ハルビンで詩集『九篇詩集』を刊行(私家版 発行者:野川邦子)。
1941年の「北満合作社事件」で検挙され加療の為の仮出獄直後に死亡。/「
(外地)の日本語文学選2」より

『九篇詩集』より


【葬式】

親しい者を亡くした上に
此処では不幸がたたみかける
白衣の女がかなきり声をたてれば
太鼓やラッパががなりたてて
爆竹までが匍ひながらはぜ割れ
乞食も金持も寄つてたかつて
身を切るやうなふるまひを食ひちらし
金泥で面子を飾つた
くそ重い棺桶に
張子の自動車や馬奴がひよこひよこと続き
葬式のあらしの吹き過ぎた院子には
散らかつた紙屑や残肴の他は
うそ寒くひるがへるあせた色紙と
そつとのしかかる借金の魔の手が
孤独な広庭におおひかぶさり
遺族の赤ん坊ののどまでもしめつける

呼蘭北大同街(ハルビン北郊の町)


【どうして窓を開けないの】

         ――不開窓

どうして窓を開けないの
外が騒々しいからさ
どうして顔を洗はないの
シャボンがちつとも無いからさ
どうして髪を梳かないの
香油がちつとも無いからさ


【役所の門】

         ――衙門口

役所の門は南向き
なんでもかんでも
金持つて来い


【賄賂役人】

         ――臓官

賄賂役人はとつても狭い
お金は寄越せお米は要らぬ
お金の始末にや苦労はしまい
お米をとつたら背負ひきれぬ