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三好十郎

みよしじゅうろう(1902-1958)

早稲田在学中、吉江喬松に師事して詩作に励み、その推薦で「早稲田文学」に詩を発表。草野新平の「銅鑼」
に参加。「文芸戦線」にも詩を発表。1928年、処女戯曲「首を切るのは誰だ」を発表、全日本無産者芸術連
盟(ナップ)に参加、「疵だらけのお秋」のほか小説・詩を書き、1931年、処女戯曲集「炭塵」を出版。プ
ロレタリア劇作家として知られ、社会的リアリズムと呼ぶ創作方法により、政治主義・公式主義に不満を抱
き組織から離れた。1934年「斬られの仙太」を発表。1935年、PCL(東宝の前身)に入りシナリオを執筆。
                                 /「コンサイス日本人名事典」より


『三好十郎の仕事 第一巻』より


【雨夜三曲】

  (1)
暗い空から
雨だれが、たらたら
心は
闇の林に眠る………

  (2)
沙門まなこを瞑(とざ)し、のたまふ
…………「わしは
もう疲れた
末法末世の雨の夜に
ともしびを消して
ぐつたりと眠らしてくれい
黒い無明の雨の音の裡に…………」

  (3)
今宵は
雨の脚くらく
想念(おもひ)は
一枚の灰色のはなびらを握り
意欲は
内側へ向いて鼻白む

【賽の河原】

    これはこのよのことならず、しでのやまぢのすそのなる、
    さいのかはらのものがたり…………………
空也上人

南無大慈大悲、三界万霊
生の駅路に立たせたまふ地蔵菩薩
あなたの足の下に拡つてゐるこの大地は
賽の河原でございますか
わたしどもは寂しい幼児だから
かうして石を積むにも笑ふでもありませぬ
又口をきくでもなく
ひとりひとりの小さな手足をこまごまと動かしながら
一つ二つ三つ…点と石を積む。
あなたは、これが、遊んでゐる様に見えますか?
ではなぜあなたは黙つて見下しながら
大慈悲の眼で微笑んでゐますか
賽の河原には日がくれぬ、夜があけぬ……
穹をいつぴきの鳥がかけり
こつそりとした影を落す
四つ五つ……
私もその内の一人だから
ひとつひとつ、まじめな顔をして、唖の石を掴む
やがてはくづれると解つてゐる石を積む
賽の河原に照る陽は、目が見えないから
しんとして薄ら寒い
ああ又くづれた……
また一つ二つと拾はう
まるこい石を握れば母者なつかし
ひらたい石をとればおばばこひしや
いつまで積んだらいいのかしらん……
「お地蔵さま。まだでございまするか?」
あたくしは、さむしい、さむしい……
だれかカンカンとかねを叩いて呉れ。


【三月堂吉祥天女】

 母が見える
 愛人が見える
 それから、今迄私がつとめて拒否しようとしてゐた私自
身の一切の楽慾が、あなたに見える
 あなたは天上界のあらゆる聖なるものの実現であるかも
しれない。しかしそれと同様にこの下界のあらゆるうすぎ
たないものの実現でもある。今男性である私は、あなたを
唯一個の女性として見よう。(さうしてもあなたがとがめ
立てをなさらぬことを私は知つてゐますから。)あなたの
おんぼりとした表情と、あなたの肩と胸と腰と脚及びそれ
らの総てが作り出す嬌態を、色好みの男の如く、眼でなで
さすり、なぐさもう。あなたの中に顕現されてゐる深く抱
擁する女性は、なにごとも言ふ事なく、私の情慾を許容し
てくれるだらう。
 この薄暗い堂内の、しかも更に小暗き龕の中にあなたは
立つてゐて、地上にいる男性のすべてを、微笑を以て見て
ゐられる。
「母よ、母よ」と私が祈れば、あなたは私の額に涙を流さ
れる。
「愛人よ、愛人よ」と私が呼べば、あなたは唇を差出され

「娼婦よ、娼婦よ」と私が言へば、あなたは静に肌衣を脱
いで、白くあたゝかく、深々とした裸身を賜ふ
 あゝ男性はかくして永劫に、自分自身の母をけがして行
きます。然し私があなたに祈るすべは此のやりかた以外に
無い、そのために自分自らの罪業を常に意識しながらも私
は、小暗い所であなたの肉体と魂に異様な愛撫のかずかず
を継続して行く……


【あまのじやくな流浪者】

生活をとりもどしたい
運命と喧嘩をしたい
毎日のプログラムを壊したい
ふさぎの虫をしめ殺したい

私が旅をするのは──
ひなかヒツソリとした町を通りたいからだ
ゆふべ人が煙をあげる山中の
宿場にたどりつきたいからだ
少し退屈なダラダラ坂を
口笛を吹いて歩きたいからだ
行くにつれ少しづつ変る言葉の尻のなつかしさ
女の顔が白いと何かしら忘れてゐたものを
思ひ出さそうだ
思ひ出さぬ私ですから
寂しい顔付をして町へ入り
雅(うつく)しい食欲と性欲とを感ずるのです
私の核(しん)に住む盲目ののすたるぢやです
この流浪者は矛盾だらけです
地球は四角なものだと彼は信じてゐます
太陽は平たいものだと彼は信じてゐます

「さうだ、歩いてゐると今に
四角な地球の角から
空気の中に落ちるにちがひない
だがビラビラ落ちて行く俺の姿を
少くとも月だけは照してくれるだらうさ
白い銀色の扁平な月影は
ちよいといい書割ではあるまいか」

──生活をとりもどすために
私は旅をする
同行二人


【踊る!】

青空の果てに
秋の祭りが
テントを張つた!

人は口を開けて
消える雀を
仰いだ!

町の工場は
林の中に
眠りかける!

テントの下で
ヒヨツトコが息を切らして
踊る!

青い夕焼の中に
せつない手と足が
散る!

テケ・テケ・テケ・ピツピー
青空の果てで、人々は
落葉と共に
散る!


【川向ふへどなる】

青桐の枝が空に突きさゝつたぞおう!
雀が飛行機を追かけるぞおう!
トタン屋根がペカペカ光つたあ!
ゴーゴー言ふのは
ありや町の電車だよおう!
紡績工場の女工さんだよおう!
頬つぺたの赤い娘さんやあい!
着物を脱いで泳がないかあ!
真白なお乳を出してもぐれやあい!
おれと一緒にとびこまないかあ!


【赤いしもんさん】

しもんさん
しもんさん
秋晴の空のさかずきに
うかびあがった輝く雲のはしっこに
神様が腰をかけていらっしゃると言ったら
ひとが笑うでしょうか?

しもんさん
しもんさん
葉と葉との間から
チラチラとあけて見える夕焼は
あれは神様のにこにこ顔だ
と言ったら
ひとが笑うでしょうか?

しもんさん
しもんさん
まだうまく毛の生えない
あなたの赤いおつむりのてっぺんが
ビクビクしてるのは
神様がうれしがって
手を叩いていらっしゃるのだと言えば
ひとが笑うでしょうか?

しもんさん
しもんさん
だから陰気な祭壇に向って
神様、神様……と言わないで
しもんさん、あなたの様に
だまって黙っているがいい
と言えば
ひとが笑うでしょうか?
ああ、あなたはにっこりとしましたね
わたしの言っている事が、おかしいと見える
しもんさん
しもんさん
あなたのしっかり握りかためたおててを開いて
わたくしに
おもちゃの神様をください
お菓子の神様をください