【消なば消ぬかに】
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ともし火消ゆる一つ二つ
車のゆきき人のどよみ
かそけくなりゆく夜(よ)くだち
家のつとめいまだ終らず
短かき袖上衣よそほひ
白きたのごひ髪にまとひ
殊勝なるかな汝(な)がいそしみ。
人の手になる飾を捨て
心の光いよよ輝く。
幸あるかな清き心は
若子(わくご)の自然をつね失はず。
はらから來り汝が手(た)のごひ
取りて捨つれば默しつつ
再び取りあげかうぶりて
散りみだれしを整へつつ
狭き屋内に秩序あらしむ。
疲れし腕(かひな)動かすを見て
汝が肩に手をおき
「いとほし」と吾(あ)がいへば
もたげし面(おも)わほほゑみて
消(け)なば消(け)ぬかに淡雪の
うつぶす汝(なれ)を目にみれば
差別(けじめ)の世忘れつ
汝(な)が名よべばかそけきいらへ。
【魔力】
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雲晴れて月明(あきら)か
波無き水のへ水鳥二つ
波をつくり浮葉に泳ぐ。
明り玉てる酒(さか)つきに
飲めどつきせぬ泡立つうま酒。
みどりの戸張忽ちあき
あらはる姿忽ち消ゆれば
ふたたび満つる泡立つうま酒
酒つきのふちあふるる思(おもひ)。
空忽ちかき曇り
石打つ雨の音(と)水打つ雨の音
木々の若葉滴る雨の音
風さへまじり戸に打つ雨の音。
靜かなるかなともし火のもと
雨をききつつ一人立てば
何のどよめき、目には見ねど
「君故ならば」と、其一言
胸のうちくりかへし
みち無き夜の迷ひの宮
數も知らぬかけ橋を
さまよひ渡る忽ち
我が胸寄り來(く)人のかげ。
思ひに堪へずや忘れし如き
面(おも)わをおほふ黒髪に
目ばゆきともし火てりかがやき
言無き思ややにどよむや
驚くほほゑみ、ありしを忘れ
「ああたまさかなりしよ」と
くりかへし別るる
時し滅ぶもの悉(ことごと)。
【その横顔】
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所もえらばず
身をも惜まず
ありのままくづほれ
集る思(おもひ)一ところ向け
身も動かず
眉も目もしづまり
唇結べる
その横顔。
古(いに)しへの~の工(たくみ)が
彫りけむ面(おも)わ
【氷る冬の夜】
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氷る冬の夜(よ)
若き血漲る
どよむふるまひ。
底にこもる
深き靜けき
心よ放ちし
疾(と)きただすまひ・
むらむら起り
止まざる心を
己れと押へ
しざれどあはれ
向けたる其目は
心を語るよ。
思はず出せし
其手にうけたる
ま玉の光に
「あれ」と叫び
疊の上に
放ち置きしを
とりて再び
汝(な)が胸近くに
我が手の迫れば
「さらば」と心を
こめたる答(いらへ)。
受けたる其玉
いづくにをさめし。
醉ひたる心を
再びさまし
何げなきさま
心をかくし
ふるまひすれども
親はし思(おもひ)の
迫り來(く)、かたみに。
【小さきねたみ】
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清きいづみの朝のささ波
搖れども搖れど濁らぬ水よ。
白き花咲くうばらの刺の
刺もいとほし白き花故。
【かへり見】
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空立つ絲遊(ゆふ)かげを追ひ
身をひるがへす胡蝶の如く
あてなきふるまひ心空し。
我をかへり見人やあると
胸に集る思(おもひ)を堪へ
行くよあはれ、運(さだめ)のつなぎ
斷たむ力のともしをみな子。
【生れしこのかた】
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生れしこのかた絶えせぬ悲(かなしみ)
涙ははなれぬ親しき友よ。
されどもかなし心かろく
たのしむ花のさかりの君に
悲わかつも吾故(あゆえ)と思へば
【時はいつ】
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春花咲(はなゑ)める君がすがた
あつきなさけも此世のさやりに
底にかひそみし憂ひの面(おも)わ。
この世呪ふか鋭どきまなこ。
つよき心のむすぼれ解(と)け
君が笑まさむ時はいつ。
【若き農夫】
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「何地(いづち)に汝(な)は行く
手に持つ鍬もたゆげに
はて無き荒野を
何地に行く、汝は」。
「心の行くへ黄泉へも行かむ」。
【冩眞】
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我がかた冩すしばしの間(ま)
「廣き世に汝(な)を思ひつつ」と
念じけむそのしばしの間。
【驚き】
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清き心は春吹く風に
つれては立ち舞ふ胡蝶の如し。
輕げの行ひ天なる鳥の
消えてはあらはる雲居のふるまひ。
自然のひびきに驚き見る方
目に入るその影心にひびき
手を措(お)くときの間(ま)思(おもひ)も迷ふ。
迷ひのむすぼれ力ぞ生る。
【低き聲】
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一日(ひとひ)も十日(とをか)の切なる思(おもひ)
たまさか相見るうれしき今宵
夢路たどり語らふ間なく
過ぐるに早き樂しき時の間。
風散る露さやけきふるまひ
母よりならひしやまとの言葉
清き心さながら冩し
天(あめ)なる樂(がく)をうつし身の
情(こころ)のどよみに響かす如し。
朝風いとふ薔薇(さうび)の花か
うれしき言葉堪ふるに餘る
そぞろの心もやがてぞしづまる。
別れの靜けさ心ををさめ
歸り行く吾(あ)を戸に導き
「雨ふり來(く)」と低き聲。
思(おもひ)にうなだれ投げたる目見(まみ)
力失せしか、あぐるともせず。
【初夏】
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空晴れ青葉風凉し
輝く明かの日の光、
池にそそぐ細き流
さざれに散る山百合花。
葉蔭涼しく明け放つ
室内目(むろぬちめ)にさやるなし。
輕げに白き夏のよそほひ
高嶺の空を行く雲か
見れども君がありかを知らず。
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