【早春の歌】
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あゝ梅が香の匂ふとき
あゝ新草のもゆるとき
ながきみ冬の夢路より
春の野面はさめにけり
さめてうれしき佐保姫の
みどりの髪のわか柳は
おのづからなるいろそへて
遠き霞の幕曳きぬ
黄金の窒フうぐひすよ
いざ谷の戸を立ちいでゝ
ながあどもなき聲をあげ
初音やさしく歌へかし
小川よなれもあたゝかき
春のひかりにさそはれて
ゆるきしらべをかなでつゝ
さゞれあやおる波の面
それ鳥のこゑ水の音
いづれか春のうたならぬ
泉のひかりうす霞
いづれか春の彩ならぬ
たのしき春のうたをきゝ
めづらの春の彩を見て
たれか心の底ふかく
よする血汐を覺えざる
花しろ/\のうるはしき
ころのみ春のすがたかは
まだうら若き前髪の
やさしき春をめでよきみ
あゝ早春の野邊のいろ
こゝによろこび、のぞみあり
あゝ早春の物ごゝろ
そこにいのちの泉あり
空ながむればゆく雲の
みどりの海に帆をあげて
小草にそゝぐ春雨の
やがて降りつゝをやみつゝ
1899年2月「帝國文學」第5巻第2(第50)號収載
【聽蟲曲】
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月は出でけり秋の夜の
空の明鏡(かゞみ)のらう/\と
うつる光のくまもなく
あふれみちたる野の面や
影を地に曳く唐黍(もろこし)の
うら葉をわたる風清(す)みて
秋は最中のけふ今宵
夜よし月よし虫もよし
歩めば草の露散りて
踏めば冷江たる白玉の
こぼれて花の香にしめば
酒を見ましや野の虫の
甘露の酒に醉ひしれて
しらぶる虫の音に聽けば
聲もよきかな伶人の
虫のすさみぞおもしろき
豆の葉かげの笛の音は
節調(ふし)懷かしききりぎりす
歌ふはそれか襤褸(つゞれ)させ
肩させ裾させ袂させ
小萩がもとに鈴虫の
鈴振りたてゝ和(あは)するは
鐘撞虫か小夜ふけて
誰れをまつ虫戀ゆゑか
風にや靡く旗すゝき
通う梭(をさ)の音つやゝかに
姿やさしき促機(はたおり)虫は
織るやいろ/\綾錦
さて轡虫草みゝず
風たのむてふ蓑虫も
ちゝよ/\と音もほそく
かなづる絲や八百千條
月の光にうかゞへば
歌のしらべにうちのりて
拍子揃へて註Uりて
舞ひ遊ぶこそをかしけれ
歌へば舞へばむつまじき
おのづからなる樂しさよ
野面を虫の國とせば
今宵はやすき治世なれや
搏(う)てばはたれば腥(なまぐさ)き
修羅の巷を遁れ來つ
月の光にさそはれて
しばし今宵ぞ長閑(のどか)なる
耳を掩へば
月に影あり
耳を澄せば
虫に歌あり
風來れば
聲そう/\(虫+曹)
風去れば
歌喞々(しよく/\)
月にあゆみ
虫に佇立み
われしばし
無象をたどる
おもひあり
うれひある身の
そもこよひ
莫愁の夜
【蟲の樂隊】
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千草・八千草、乱れ咲きて、
花を褥の夢おもしろと、
おのずからなる虫の声々。
チンチロリン、チンチロリン、
スイッチョ、スイッチョ、
ガシャガシャ、ガシャガシャ、
ガシャガシャ、ガシャガシャ、
月ある夜半は
秋の野面の楽隊おかし。
鈴虫・松虫・くつわ虫や、
こおろぎ・馬追・鐘つき虫の、
節もさまざま、歌に囃子に。
チンチロリン、チンチロリン、
スイッチョ、スイッチョ、
ガシャガシャ、ガシャガシャ、
ガシャガシャ、ガシャガシャ、
風なき夜半は
秋の野面の楽隊おかし。
【蟲のこえ】
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あれ松虫(まつむし)が 鳴いている
ちんちろちんちろ ちんちろりん
あれ鈴虫(すずむし)も 鳴き出した
りんりんりんりん りいんりん
秋の夜長(よなが)を 鳴き通す
ああおもしろい 虫のこえ
きりきりきりきり こおろぎや
がちゃがちゃがちゃがちゃ くつわ虫
あとから馬おい おいついて
ちょんちょんちょんちょん すいっちょん
秋の夜長を 鳴き通す
ああおもしろい 虫のこえ
【二宮金次郎】
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一
柴刈り繩なひ草鞋(わらぢ)をつくり、
親の手を助(す)け弟(おとと)を世話し、
兄弟仲よく孝行つくす、
手本は二宮金次郎。
二
身を惜(をし)まず仕事をはげみ、
夜なべ済まして手習読書、
せはしい中にも撓(たゆ)まず学ぶ、
手本は二宮金次郎。
三
家業大事に費(つひえ)をはぶき、
少しの物をも粗末にせずに、
遂には身を立て人をもすくふ、
手本は二宮金次郎。
『尋常小学唱歌(ニ)』明治44年6月
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