小塚空谷

こづかくうこく(1877-1959)

愛知県海部郡生まれ。本名鎮雄。東京専門学校(現早稲田大学)中退。明治30年代半ばから児玉花外に従っ
て片山潜主筆の「労働世界」などに寄稿した。この雑誌は誌名のみ「社会主義」となって、1903〜1904年
に刊行されたが、空谷の作はすべて漢語を多用する定型詩で、詩想はむしろ観念的である。彼の「
軍歌
などのため同誌は発売を禁止された。/「日本現代詩辞典」より

 

「明治文學全集」83
 明治社会主義文學集(一)より


【あはれ靈なき人の子よ】

虚榮の臺に起居して
僞善の衣を身に纏ひ
弱者の血汐をうま酒と
黄金の盃にうかめつゝ
不義の快樂(けらく)を糧として
肉に培ふ人の子よ。

汝(いまし)が樂しと歌ふ音は
木枯すさむ闇の夜に
犬の遠吠えきくがごと。

汝が喜び踊れるは
夕月うすき墓に出て
髑髏の舞ふに似たりけり。

アゝ幸なき者よ、汝等が
もちし貴き靈魂(たましひ)は
私慾の惡夢に襲はれて
まがつみの笞に艱(なや)みつゝ

空の煙と消えてゆき
今は精なき骸(から)となり
あはれ獨りで徒らに
差別の門に立ち迷ひ
幻化の變を眺むかな

権威の墻塀目を射りて
榮燿、汝が室にみち
浮誇の鄭聲耳をつき
歡樂、汝が意馬を駆らむ。

汝の肉の知り得たる
これぞ迷ひの感にして
「時」の潮に乗り來たる
榮枯の運命(かみ)の手にすてふ
盛衰の采のもしゆらば
肉躰、朝の雪と解け
氓滅、これらの前に來む。

眞理の堅き楯を持ち
まことの強き帶をしめ
義人一たび野に出でゝ
正義の光りを照らさん乎
邪惡、影となりて地にうつり
虚僞、燒かれて空(くう)と盡きむ。

あはれ靈なき人の子よ
これらの艱み來ざるまに
はやく「自然」にかへれよや。

平和の泉充ちあふれ
つきせぬ生命茲にわき
明月隈なく輝きて
とはの光りは茲にもゆ。

希望の花は野邊にさき
自由のたのしみ茲にいで
永窮の雪山に積み
平等の世界茲に建つ。

「東京獨立雑誌」第26號
1899.3.25


【失業者の歌】

我が身躰(み)惜しきは人の情
さても其の躰内(み)に宿りつる
一縷の生命保たんに
あはれ同じく人ながら
人に職業(しごと)を乞はざれば
生くこと難き惡社會
如何に僥季(ぎようき)の現世とて
抑も何たる次第ぞや。

それ惡業の俑たるか
昔カインの人斬りし
その時以來今日までに
咄、果されし數々の
あらゆる戦争、凡ての淫行
あらゆる窃盗、凡ての虚言
あらゆる殺戮、凡ての自殺
それら以外に又一つ
新らたの罪を加へたる
~の激怒も臨むべき
アゝ恐ろしき「失業」や

平和の衣姿(ころも)うち被り
戦争茲にのぞみつゝ
何んにも云はぬ勞働者(じんみん)を
時々刻々に倒すこと
其の數凡そ幾万人
跡に殘さるものどもは
アゝ恩給金もなき寡婦(ごけ)ばかり。

耻辱(はぢ)外分を忘れたる
彼の敗コ漢のそれよりも
操を汚す賣春婦(いんばい)の
尚ほそれよりも卑屈なる
己を實(げ)にや賣りあるく
茲に精~(こころ)の娼婦(ばいた)あり

世界の窃盗(どろぼう)悉く
一緒(ひとつ)にしても尚ほ足らぬ
茲に圖太き盗賊(ぬすと)あり、
不義に築きし其の門前(もん)に
知者も學者も頭下ぐ
いと高慢の盗賊あり

虚言の上にも虚言を吐く
その又虚言が茲にあり
「暇を出さうが使ふが
仕事ささうが奪ふが
我がものなれば我が自由(まゝ)」と。

眞乎(まこと)の人間あへなくす
その虐殺が茲にあり
アゝ故もなき斬戮や
死屍、殘害、眼に迫る。

見よ、あはれなる人々の
精~(こころ)の自殺者茲にあり
アゝ盗賊(どろぼう)の詭辨(くちのは)に
つられ/\て氣迷ひて
「ソレは己の財布故
中のお金錢(あし)も我がもの」と。

おなじく此の世に生れ出で
彼れも人なれ、我れも人
人たることは違はぬに
人が職業を人に乞ふ
かゝる道理があるべき乎?

アゝ、惡しき社會を辨護する
不届至極の僞善者よ
アゝ偉人の胸に絶叫す
眞理 抑ゆる偽學者よ

不義につまりし耳清よめ
艱(なや)める社會の聲を聞け
涙湛ゆる眼(まなこ)開き
餓えたる社會の現状(さま)を見よ

自ら平和の辨護士と
名のる軍人仰も何ぞ
あした夕も休まずに
汝が演習、勤勞は
無殘を極はむる殺人よ、

罪なき死人の血潮(ち)は凝つて
汝が肩の金モール
胸に輝く勲章は
敵の恨の眼の光、

アゝ鐵砲くだき軍馬斬り
アゝ、喇叭を捨てゝ軍馬きり
凡てを平等調和せよ。

アゝ、人が職業を人に乞ふ
さても不思議の差別かな、

來れよ、來れ、茲に來て
虐待、熱病(やまひ)に打ち臥せる
幾多(あまた)、奴隷の室を見よ、
精盡き、根盡き、生命盡き
彼等は悲しく眠るなり、

來れよ、來れ、茲に來て
始めて落ちつく平安の
彼等が休む場所を見よ、
發狂者(きちがひ)ならば養育院
墓墳(はかば)であれば卒塔場(まと)もなし。

アゝ、我が同胞(はらから)や行く先に
「汝に與ふる職業は
我家に一も之れなし」と
すげなく門に斷はらる。

それさへ将に取られんず
一の生命の其の外に
つゆ塵もなき貧民の
境遇今ぞ盡きんとも、
均頒されし天賚の
此の世の寶、私奪(わたくし)し
審判(さばき)のがるゝ富豪(かねもち)の
今ぞ罪禍に榮えんも、

~は此の世を懲らすべく
さて死を送ることもなし
旻天さすが堪忍や
彼れ、亂りには激怒せず
アゝ、高きは~よ、尚更に
不意の死、何ぞ之れ送らん。

アゝ、仰ぐも尊し我が~よ、
アゝ、慈仁極なし我が~よ、
人に職業(しょく)乞ふ奴隷等を
いや慈しめ我が~よ、
彼等の爲こそ我れ祈れ。

「勞働世界」第7年第3號
1903.1.23


勞働軍歌

   一
シナイの山より聲あげて
曾て聖者の叫ぶらく
我が身を愛する其の如く
汝の隣の人を見よ
重き荷を負ふものあらば
互に力を頒つべし
然らば其處に我れ來り
休安(いこひ)を汝にあたへんと

   二
言葉の數は少なくて
愛情深き御教えや
その教えをば實行し
永き壓制受け來たる
我等の艱み救はんと
旭の如く輝きて
社會運動初まれり
愛はこれより進歩せん

   三
正義眞實あふれたる
此の福音の新鐘を
大千世界に打ち鳴らし
隅より隅に響かせよ
勞働軍の赤旗を
社會の大路に翻へし
刃向ふ惡魔なぎ拂ひ
永久に榮えて樹てしめよ

   四
信誼の~の電光(いなづま)を
利己と私慾の立て籠る
富~(とみ)の城堡(とりで)に投げしめて
破壊せしめよ、微塵まで。
虚僞と豪奢(おごり)は我等の敵ぞ
卑怯、不斷は男にあらず
常に大道闊歩せよ
眞理これより進歩せん。

   五
土と水とが産み出す
自然のめぐみは無盡藏
されど座ながら食ひ飽ける
怠惰、無頼のあるが爲め
汗に働く人民は
日夜苦役に服しつゝ
其の得る所いくばくぞ
僅のパンと骨とのみ

   六
さはれ社會の巨人等は
今や眠を醒しつゝ
世界は凡て己が手に
屬することを自覺(さと)り來ん、
社會主義者の絶叫は
其の曉の鐘にして
進軍喇叭の相圖なり
権利これより進歩せん

   七
此の世の暗闇(やみ)を照(かゞ)やかし
あらゆる業禍燒き盡す
社會主義なる運動は
今日末世の燈明台、
泥の如くに腐りたる
失望、堕落の人々は
早く此の火を尋ねつゝ
迷ひの巷のがれ出よ

   八
教會、寺院に勝りたる
勞働軍の柵に入り
眞宗教の杯に
愛と正義の御酒を飲め
新(あらた)の力身に入りて
生命は永く復活し
和氣の社會の幕あきて
世界はこれより進歩せん

「社會主義」第7年第12號
1903.5.18


【勞働軍歌(再び)】

   一
卑屈の夢を打ち破り
眠れる友を呼び起し
起てよ世界の生産者
人類社會は進歩して
汝の権利を認めたり

   二
四民同権たることは
もとより天理の定めなり
虐主の権力(ちから)ほろぶまで
大聲罪を疾呼して
一歩も退くこと勿れ

   三
いづこの土地もどの時も
我等を支配するものは
世界を越えて平等に
塵の邪道も用捨せぬ
眞理と正義たらしめよ

   四
勞作(ろうさ)の獄(ひとや)破壊して
艱みの壁を壓しつぶし
困苦の首械解き放ち
休安(やすみ)の平和もたらする
進軍喇叭におくるゝな

   五
其の日その日の食毎に
汗と脂と血のパンに
苦き味ひ知るものは
如何なる働きするものも
我等の主義に早や來たれ

   六
四海兄弟實があり
平等安慰の樹の蔭に
凡てが自由と爲るまでは
海と陸(おか)とに差別(けじめ)なく
勞働するもの皆きたれ

   七
土地の私有を全廢し
資本制度の惡を矯(た)め
社會の生産(はたらき)するものに
其の報酬を欠かざるは
我等の主張するところ

   八
帝王何の要がある
政府俗吏は坐食の徒
我等の恃むは正義のみ
天下の惡は皆滅し
勝利の閧聲期して待つ

   九
軍艦くだき兵馬賣り
あらゆる軍備撤去して
同胞親誼の情あふる
愛と平和の社會主義
此の世に浄界(じやうど)風あげん

   十
これらの正しき要求は
~も佛も聞き容れて
諸手を高く喜んで
我等の進路さし招き
早き到着助くなり

   十一
今や時勢は迫り來て
勞働運動盛んなり
眠れるものは早く起き
醒めたるものは聲高く
鼓吹の曲を歌ふべし

「社會主義」第7年第13號
1903.6.3


【勞働軍歌(三)】

   一
たゞ一片(ひときれ)の土地だにも
持てるものとて稀にして
西に東にさまよへる
我等は地上の流浪人

   二
欲主○○これありて
我等の生れぬ其の前(さき)に
天の與へし共有の
この地を掠め奪ひたり

   三
今や奪ふて生得の
我等の権利回復す
勞働軍は勇みたち
擧ぐる鬨聲いと高かし

   四
我等が勝利の機期(とき)きたり
いづれ社會に隈なくも
かゞやき渡る千歳の
未來の光榮ちかづきぬ

   五
われに何等の旗はなく
又國民のけじめなし
宗旨、教儀もあらざれば
信仰、箇條の要もなし

   六
廣き世界が我等の國家
血をもて結ぶ仁義黨
人情あふるゝ社會には
法律(おきて)、軍備も益(やく)あらず

   七
働くものにあらざれば
塵の褒賞(むくひ)も手渡さず
貴族、富豪の座食者を
我等のうちより放逐(はな)つべし

   八
最後の勝利は勞働軍
永く凍えし痩せ血をば
輝き照らす千歳の
未來の光榮享受せん

   九
前途茫々日はながく
止む間もあらぬ勤勞に
我が強健の鉄腕も
疲れて重きを覺ゆなり

   十
故なく土地を獲んとして
爭ひ絶ゆるときはなく
愁ひ、かなしみ湧き出でゝ
我等の心なやむなり

   十一
我等の進歩さへぎれる
凡て古風の惡雲は
一擧のもとになぎ拂ふ
自由よ、早く來たり吹け

   十二
俗論、壓制おしひらき
民衆○○たちあがり
光り輝く千歳の
未來の光榮仰ぎ待つ

   十三
時は來りて収獲の
果實は己に熟したり
待ちたる用意とゝのへて
まさに運動すべきなり

   十四
秋の日に熟(な)る紫の
ぶどうの色は濃(こま)やかく
我等が友の日に流す
犠牲(にゑ)の血潮にさも似たり

   十五
恨みの涙、目にくもり
泣いて蒔きたる土くれに
熟りたる葡萄収さむるは
之れぞ我が義務わがつとめ

   十六
社會運動はじむるは
同胞主義の曉ぞ
秋の日に増す千歳の
未來の光榮かゞやかん

「社會主義」第7年第15號
1903.7.3


【社會主義歡迎の歌】

合衆國の森を吹き
フランス國の野を過ぎし
権利と自由の暴風は
我等が頭上を今襲ひ
開花促がす、社會主義!

獨逸全土に漲りし
ライン河畔の新行動
英國議會に進みたる
テームス渠船(ドツク)の一職工
聞き榮えよ、社會主義!

正義の赤旗うち樹てゝ
世界の知識を開拓し
且つ壓せられ、欺かる
勞働者等を振はしめ
花と榮えよ、社會主義!

圓満具足光榮の
よき日の曉むかへんと
何(いず)れも進む戦場に
先登爭ふ同志の勇
花と開けよ、社會主義!

勝利われらに歸するとき
率土(そと)の濱邊の舵手(かぢとり)も
美服を纏ひ幸福の
旭光(あさひ)めでたく禮拜す
香は深き社會主義!

「社會主義」第7年第19號
1903.9.3


【自由の歌】

アゝ歌はんか歌はんか
高く大(おほい)なる我が自由
古習の柵(しがらみ)つき破ぶり
無道の暗(やみ)より來りたり、

負擔重きに堪えかねて
其の背は甚(いた)く曲りたり
妨ぐ荊棘、介殻に
傷痕足を蔽ひたり、

汝の額に赫々と
さても輝く其の光
眞理したひし其の光
明星何ぞ及ばんや

汝の奏づる大歌曲
響の高きは道理(ことわり)か
宇宙調和の妙藥に
祟巖勇威の調あり

汝の胸に脈博す
圓満のらむ精~は
社會の隈に徹底す
慈母の如きの大悲願

纒ふ所は義の衣
彩(あやど)る飾、世を照し
正き襟は高く立ち
平和の裳裾ひるがへる

一たび自由を仰ぐもの
高貴の性に感通す
凡て汝の粧装(いでたち)は
恩惠親和の美術なり

自由の結ぶ仁道の
其の帶ひろく美しく
靄然四海を融合す
同胞主義の絆紐たり

そこに信あり、義勇あり
希望、泉の如く湧き
そこに義務あり祈祷あり
失望とはに敗服す

権者の建つる十字架を
焔となりて燒き倒し
塵に埋もるゝ人の子の
風となりては袖拂ふ

自由の進軍するところ
天命さだまり盡くるまで
自由を形容するところ
自由の外に外あらず

自由は凡ての母にして
世界は汝に蘇へる
自由は凡ての生命なり
物、汝によりて發達す

正義は自由の心なり
~の意志(こころ)は正義なり
自由の~が生み出せる
自由は、自由の自由なり

「社會主義」第7年第26號
1903.12.18