【ねがひ】
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あなたの空に往かまほし
海原とほく船出して
はしき吾が背とたゞ二人
浪路をわれらの世界にて
浪路は如何に荒くとも
はやては如何にあれぬとも
君をおきては命とも
山とも頼まむ人やある
沈まば沈め浪の底
すがる此身を見たまはゞ
泡と消ゆとも世の中に
思ひはあらじと知りまさむ
あれしあらしもをさまりて
月さへ澄める浪の上に
影も並びてやすらはゞ
いかに嬉しきことならむ
ふたりの影の外にまた
浪に浮かべるものもなく
來し方ゆく末かたらはゞ
如何に嬉しきことならむ
あなたの空に往かまほし
海原とほく船出して
はしき吾が背とたゞ二人
浪路をわれらの世界にて
【亡き人の墓】
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たのみし事も仇なりき
契りし人も夢なりき
はかなきものは君にして
つれなきものはわが命
たゞかりそめの一ことに
親はらからもよそにして
榮耀榮花もかへりみず
われには君ぞ身も捨てし
われを遺して君ひとり
この世さりぬと聞きし時
契りも頼みもすまじきは
人なりけりと悟りてき
されども思へばいと嬉し
君はなさけの深くして
操もきよき人なりと
大方びとにもめでられき
今は十歳を外國に
學びをさめて君がため
得たる智識もかひぞなき
愛なき智識は惡魔なり
いたくもあれし此の墓よ
葎に垣も見えぬなり
法師はおのがつとむべき
つとめもよそに何かする
悲しき秋の風は吹く
枯野に虫も喞つなり
待てよさびしき苔の下
われも長くは世に住まじ
【七歳にて身退りける甥の不覊を】
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先立つもなほ樂はあり
遺れるもなほ苦はまとふ
つひに行くべき道なれば
罪えぬほどや易かりし
【まなび】
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學べばわれも塵となる
~こそ今はたふとけれ
學べばわれも~となる
塵こそ今はいとしけれ
【~】
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宇宙に~はなきものを
ありと思へる人をかし
心に~はましますを
志らですませる人あはれ
【月と花と】
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月花のつくり出でたる心かな
月も花もやがて我身の心かな
月と花と共にこの世の心かな
月も花も心も一つ佛かな
【時】
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久しくよそに過ごしつる
花の面影かへりきて
わが打ち見ればおのづから
うつろひてけりあなあはれ
【たも影】
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未だ御聲はきかねども
その面影は見奉りぬ
熱か光かあはれさに
打たれてわれも魂消えぬ
そのあはれさに魂消えて
われやむかしのわれならぬ
たゞ籠り居てゆく水に
今日はものかく身となりぬ
春ももの憂しひとり寢て
ねやの軒端の月見れば
上野隅田の花の空
人はたのしとぞ歌へども
かゝらざりせば母上と
あくがれましを野に山に
不孝の罪はゆるしませ
戀は心のもがさゆゑ
戀よつよきはいましなり
御國のためも子の道も
家の寶も身の耻も
いましが眼には塵なれば
【學者】
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せつかくたのしい此世の中を
かたい理屈でむがむにきざむ
野暮じや先生ちよとふりむいて
こちらの花をも見やしやんせ
【花】
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御國おもひて氣も結ぼれて
ひとりくよ/\樹の間を往けば
花が泣くなと意見する
【春の夜】
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月もおぼろの春の夜の
空うち眺めなげくかな
色香なき身はまこゝろも
あはれとひこむ人もなく
【夏の夜】
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むかし忍びてかたへの椅子に
ひとり仆れてたゞしみ/゛\と
ふかきつみとがわがわび居れば
木の間がくれの六日の月に
不如歸となきゆく時鳥
【音樂】
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なが聲聞けば塵の夜の
あだし願もうせぬなり
あめつちあひぬ物とけぬ
時も處もきえ果てぬ
ゆかしと常にわが思ふ
~代の春にかへるかな
なが聲聞けば塵の世の
あだし願もうせぬなり
【偶感】
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身は谷川のもみぢ葉か
よるべもなみに流れゆく
盛りの色はきのふにて
明日はいづこの塵ならむ
鐘の音さびし風さむし
こゝろの空も時雨れつゝ
【戀】
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戀とはなにぞ父上よ
戀とはなにぞ父上よ
かく問ひまつれば父上は
われにむかひて嚴かに
天なる~よとのたまへり
戀とはなにぞ母上よ
戀とはなにぞ母上よ
かく問ひまつれば母上は
わが頬なでゝゑましげに
そなたの父よとのたまへり
戀とはなにぞ兄上よ
戀とはなにぞ兄上よ
かく問ひまつれば兄上は
わが手を取りてのどやかに
春のひかりとのたまへり
戀とはなにぞ姉上よ
戀とはなにぞ姉上よ
かく問ひまつれば姉上は
われをいだきてひそやかに
誠の熱よとのたまへり
さはむづかしき問ひなりき
さはむづかしき問ひなりき
げにも戀とはこひの事
今しもはじめて覺りえぬ
あはれ戀とは戀の事
【さうびと墓】
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墓はさうびに問ひていふ
朝な/\におく露を
いましが身には何とする
さうびは墓に問ひていふ
日々に問ひくるひと/\を
いましが宿には何とする
さうびはこたへてないぶかりそ
そのおく露は色に香に
わが身に入りて愛となる
墓もこたへてなうたがひそ
その尋ね來るひと/\は
わがやに入りて~となる
【山茶花】
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なにを求めん心なく
森の樹の間をわけゆけば
巖のかげにさゞん花の
色なつかしくさきにほふ
そを手折らむと立ちよれば
かはゆき聲にその花の
いへりける樣いたづらに
つまれてかるゝ我身かは
根ごとしぬきて我宿の
志づけき園に植ゑしより
枝葉も志げく生ひいでゝ
さかえこそすれこの日頃
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