石橋愚仙

いしばしぐざん

生年没年不詳。経歴不詳。全く不詳。どなたか何かご存知でしたらぜひご一報を……→mail to



『山高水長』より「仙堂曉夢」

【その名】


君もあはれと思ひなば、
    またとその名を言ふ勿れ。
きけばなまなか忍ばれて、
    涙の種となるものを。


【わが戀】

はしたなき身と笑はれつ、
    なほこりずまに君にしも、
命をかけて戀ふる身は、
    悲しかりけり昨日今日。

思ひ餘りし言の葉の、
    つもりて山となるまでも
君にきこゑむよしもなく、
    ひとりさびしく歎くなり。

なさけも深き君なれば、
    いつか我が身のこゝろざし、
のこさずきゝて給へかし、
    さらばなやみも晴れやせむ。

われも男の子ぞいつ迄か、
    戀の道のみたどるべき。
君がためとし知るならば、
    思ひたつべしこの戀を。


【愚かの余】

處女に君は在せども、
    親の定めし夫あれば、
道ならぬ戀と知りながら、
    我は君をば戀ふるなり。

昨日は村の人々に、
    賢き人と言はれしが、
今日ふみ迷ふ戀の道。
    愚かのわれを知るや人。


【水遊び】

「こゝまで來たら乳飲ましよ。」
水はあえぎて來たりしが、
小供は遠くあとしざり
「こゝまで來たら乳飲ましよ。」
水は走りて來たりしが、
小供はまたもあとしざり
「こゝまで來たら乳飲ましよ。」
水は行かむとおもへども、
今はたゆかむ力なし。
聲もろともに手を擧げて、
小供は「ワー」と叫びしが、
笑ひつゝまた立ち歸り、
「モー來れないかおかしいね。」
小供は今日もかくしつゝ、
たのしく水とあそびけり。