【寂寥】
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い木はいたるところにある、
生きた葉は死の表情に慣れて、
尖つた舌の重なつた下から、
寂しい顔がのぞいてゐる、
風の眼を恐れるやうに。
一つの花があらゆる肉體に咲く、
蝶は光に鞭たれて幻惑しながら、
夢より重く、翅を垂れて、
よろよろと、出口を探してゐる。
疲れた眼は永久に閉ぢられて、
傷ついた心をかくまうてゐる。
あるものはだんだん小さくなつて、
最も遠い星に達しようとする。
あるものはただ寂しく微笑する。
數へ切れない夢が
光の中に飛んでゐる、
齒朶の扇で
光の方へと追はれながら。
【鳥影】
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晴れた空のもと、
光る風の中を、
瞬間の鳥が過ぎる
ただ一列なして。
とらへたや、とらへたや、
あれはみなわがもの、
わが身の後光、
美しく失はれて・・・
身にひそむもの
身を編むもの、
あまりにも早く放ち、
悔いてみる、鳥影。
とまれ、とまれ、鳥よ。
わたしの生の水晶を
切り出して生んだ鳥、
飛び去るな、今より。
わが裡なる谷窪、
晶石のうつろに
一體の光としづめ、
永遠の相を現じて。
【忘却】
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影の匂ひに
裸身を浸し、
流轉の髪に
心をまかす。
蘆にかくれて
風を見つけ、
鳥をはなちて
聲ををさむ。
おもく垂れた
手は遠く、
動くものみな
忘れ去る。
色は死に
相(すがた)しりぞき、
時の巣に
ひとり眠る。
【釣床】
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釣床に思ひをのせて、
揺れるもの、みな花となる。
垂れた足あまりに白きに、
紅き唇、しばらく落す。
風は花の姉妹(はらから)である。
忘れたとき、つと來ては、
胸に重いものをかい撫で、
思ひ出の匂ひを殘す。
合歡の葉のやはらかな眸(まみ)
閉ぢるとき、閉ぢわすれた
貝の葉のおくにこもりて
遠く呼ぶ、夕の思ひ。
身は半ば死し、
心のみ半ばめざめ。
釣床に揺られつつ
時の袖、しばし捉へて。
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(編集部註)
■釣床=ハンモック
【網目】
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すべてのものを網の中に置いて見る、
魚のやうに、
蟲のやうに、
すべてのもの、
網目をとほしてすくひあげる
灯かげである、
風である。
ちらちらとゆらめくものは
生のすべてである、
ただよふ眼を惑はすもの、
夢を汲み上げる水車である。
網の中に閉ぢ籠つて、
紗をとほして見る
うつろな瞳に、
すべてのもの、
今見慣れず、
親しみなし。
すべてのもの、
網の中の
白き眼に、
遠し、遠し。
【白檀の箸】
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身のまはり、すべて波なり。
脈打ちて、來ては逃るる。
ただひとつ、白檀の箸、
短しとすかし見れば、
きもの、底しれずして。
ただよへば、倒ることなし、
立つとすれば、波に奪らるる。
白きもの、花のごと揺れ、
象牙の螺旋、沈み沈んで、
日照り波、葉うらをかへす。
身のまはり、すべて波なり。
月の夜の舟とうかべば、
斜めなる天(そら)のはしより
雫落ち、涙こぼれて、
白きもの、今はめき、
きもの、黒く老いたり。
【描かれた夢】
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鳥籠は三つ並んでゐる。
鳥は二羽づつ並んでゐる。
木の葉が上から來て蔽ふ、
歌ひつつ、囁きつつ。
鳥はとまり木に身を揺する。
失はれることのない時を揺する。
鳥の言葉は鳥に遠く、
眼はいつも空と語る。
これは描かれた昔の夢である。
その夢の中に、白い女一人あらはれ、
鳥をつつき、かすかに笑ふ、
歌ひつつ、囁きつつ。
【幻の畫家】
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わたしは自分の肉体(からだ)にいろいろなものを描いた、
あるときは花を描き、
あるときは虹を描き、
また唐草模様を、
蛮人の鎗を、
天人の喜劇を描いた。
わたしは名匠のたくみを知つてゐる、
然し、それは消さねばならない、
それは一日の名畫である。
わたしの肉体に積つた落葉は
無数の苦痛と快楽の樹から
ただ一日わたしに許された色彩であつた。
わたしは幻の畫家であつた、
肉体のカンヴスに
はかない影を描いて、
みづから味はひ、
みづから溺れ、
みづから泣いた。
わたしは描くことを忘れ、
また消すことを忘れた。
わたしの樹に
今は沈黙の鳥がとまり、
むかしの花を
その嘴から落す・・・・・・
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(編集部註)
■畫家=畫=絵、描く=画家
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