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人見 勇

ひとみいさむ(1922-1953)

横浜市生まれ。日産自動車に入ったが胸を病み二年にして退社。武蔵野療養所に入って南江伸の名で
「文芸汎論」に詩を投じた。岩佐東一郎に師事し、戦後「近代詩苑」に拠る。1946年、扇谷義男らと
「浮標」を創刊。また「第一書」にも参加した。詩集刊行を企てていた途中で病没。扇谷の編集で遺
稿詩集『襤褸聖母』が出された。/「日本現代詩辞典」より

 

【體温表】

新しい水平線に漂う
喪のリボンにひかれながら
また 氷嚢を吊す指が
なまぐさい曲線を描いてゆく
とある病院船のタラツプへ

【林檎】

すでに犯された 天の
竪琴の最後の絃のように
なおも 高く張りつめている
白い乳房よ 昏れてゆく
メスに逆らいながら


【窓】

あけはなつ 深夜の
ガラス戸をはしる 弾道の影に
惡い霧に濡れた痰壺に
ああ ナザレの星の穴から
あんなに骨の灰がふつてくる

――「詩学」より――


【小さな襤褸の瞳】

黄昏の鐘の音がしみわたつている

あの枯芝をいだくように
垂れている 水仙の葉にも
あなたの息子はと言えば

あんなに雪が囁きかけている

今宵 ふと讃美歌をうたう
母の刺繍の針にも肖た
光が またもつき刺さつてくる

ぼくの疾む脳髄を軋りながら

坂をのぼつてゆくリヤカーの
柩の中にみちあふれていた
室咲きの花々がのこしていつた

足あとがいきいきと匂つてくる

この凍てついた牢屋(ひとや)のともしびを
白い突風が 一瞬 消していつた
雪の虚空に まだ揺れているような

老いた祈りの手よ

――「第一書」より――