「ニヒル」
【ヴァガボンド】
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世界のどこにも故郷をもたぬ。
僕には世界が故郷である。
ああ 故郷とは
生活と思想の安住する墓場である。
【透明な感傷】
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薄い肩を抑える冷たい触手がある
貧血した心に想いをしいるわびしい瞳がある
秋の夜空を歩むことに
このニヒルは床しい危険を感ずるのだ。
【砂塔を積む】
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河と空との涯を駈ける
怠惰な日の青ずいたねがい
レン レンと 海魔の息吹に胸をなびかせ
浜えんどうの花が可憐な白昼の夢をむつぶ処
ああ
私は専念に今日も崩るる砂塔を積んでいる。
【夜を生きる】
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深くも考うる夜である。
深くも考うることのすきな僕である。
雑念を喜戯する者は近寄るな。
青白い空間の凝視を愛せざる方よ去れ。
*
馬鹿となり、馬鹿と徹せよ。
サトリとなる。
だから僕は夜のハンガーを生きるのだ。
【秋】 ―蒼空と烏―
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冷々とかがやける一筋の蒼空。
透明な興奮にいたむ快■(かいきょう)。
秋ははろるかな窮極にやどる。
追っても、追っても、追いつめることの出来ぬ。
ああ このイデアの白さ。
所詮
寂寥を空に撒く、われは
一羽の烏となるであろう。
【八月の詩】
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空
青い、青い、酸素の海
心臓のこおった月が白っぽく浮いている。
山
海抜三千米
八月の意志は太陽への反逆である。
街頭
平面化した四季の異彩
不景気とはこうも惨めなものか。
海原
情熱をたかない詩人
誰がこのりょうりょうたる思想を否定しようぞ。
【虚無】
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生きるとは何であるか。
意慾とは満腹でもあるのか。
明暗の裏に不断に使嗾する日輪はある。
だが、呼吸だけが凡てだったら
人生に絵具は捨てよう。
斯くて分時を惜しいとは思わぬ。
俺には墓場への準備もない。
「秋」
【河鏡】
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穂芒が乱れ
茜の雲が散ってゆく
風は蒼々とたそがれを駈けり―
河岸
流転する青畳の表に刻まれた秋模様
【秋と私】
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秋は
私を抽象的なニヒリストにする。
空虚な二十世紀の倦怠よ
私はすばらしい明日を欲求する。
秋は
私をペシミズムの詩人にする。
蒼い骸骨の様な想念よ
私は陰鬱な墓場の歌をうたう。
【孤独】
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たった一人であることは
こんなにも快いものか
なにもかも洗い流して
れい れいと 秋空のあかるさ。
たった一人であることは
こんなにも侘しいものか
あれやこれやの懐想に深む
りょう りょうと 秋空のくまなさ。
【冷朗ないたみ】
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秋空はオレの血を吸う。
日毎
オレの肉体が削られてゆく。
だが オレは
心臓のほそってゆく快感を悲しいとは思わない。
さわ、さわと
秋空はオレの憂鬱を流してくれる。
【わくらば】
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わくらばはかなし
秋をくずるる
私の肉体のさだめか。
カサ カサと
かわいたおとずれと黄色いあきらめにねむる
わくらばの骸を
ああ 私は決して
私であるとは思いたくない。
【秋を蹴った男】
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秋風がのぞみを浚ったので
男は虚空を泳いでいる。
腕をくんだまま、男は、だが
動けない自分を不思議に思わない。
*
瞳をついばむ感傷的な色彩が
冷淡に秋を訣別する頃
非組織な叙情に浸ることをやめて
男は真面目に生活を考えるのである。
「五月の栞」
【五月の栞】
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かおる風。
きらめく若葉。
躍動する想念。
女の体臭に―
健康なあけくれ。
【憂鬱のない街】
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白い街。
新緑の中の高い天主をみたか
人々は
青い空をたべている。
【ヒヤク】
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山は若人の感覚に躍り
そこには樹々の清冷な思想が燃えていた。
雨上がりのあした―
僕は
碧空をけたてて泳ぐ自分をみた。
【田園の秘密】
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泥濘にまみれて立つ肥大な脚線
誰か、純情のとぼる焔のないと云うか。
蛙の交接にも昇騰する乙女の青春はある。
田園の真昼の美しい秘密。
【情交】
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月夜の海原は凄滄な情慾に濡れていた。
打算のない愛に強烈な本能の杯をかかげた男と女であった。
翌日―
軽快な胸を張って女は其処に思い出を散歩した。
陽光のサンサンと降る五月―
去勢した瞳をあげて男は夕の女を愛執する。
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