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後藤謙太郎

ごとうけんたろう(1895-1925)

「後藤は大正11年(1922年)に東京でひそかに結成されたテロリスト集団ギロチン社のメンバーであったがその活
動に入らぬうちに、彼がそれより前にした軍隊宣伝事件のために捕われて未決監で死亡した。熊本県の日奈久に
生まれた彼は、早く郷里を出て労働者として各地の炭坑を歩き、満州にも渡った。その土地土地における活動の
ため熊本、栃木、宇都宮、上田の監獄にも入って、その折の作品が残っている」/秋山清著『発禁詩集』より


【雪の線路を歩いて】

貧しさの為に俺は歩けり
ひとすじの道 雪の線路を俺は歩けり
貧しさの為に歩ける俺には
火を吐きて 煙を挙げて
罵る如く 汽笛を鳴らして
走りゆくあの汽車が憎し
文明の利器なれども俺には憎し
ひもじさの為に疲れて歩ける俺には
それが食えがしに汽車の窓より
殻の弁当を投げつくる人の心が憎し

とりわけて今 村を追われて歩ける俺には
スチームに温められて
安らかに旅する人の心はなお憎し
われ等が汗にてなりし
秋の収穫を取り去る代りに
彼の怖ろしき文明の病毒を運び来る
あの汽車は
毒蛇のごとくたまらなく憎し

毒蛇のごとくたまらなく憎きはあの汽車
野獣の呪いのごとく 夜も日も唸りて
若き男女の幾群を
ああ痛ましき都会の工場に送り出す
たまらなく憎きはあの汽車

 (五行抹消)

貧しさの為に歩ける俺には
村を追われて歩ける俺には
ひとすじの道 雪の線路を歩ける俺には
文明の利器なれどもたまらなく憎し


遺稿集『労働・放浪・監獄より』


【採炭夫の歌】

底だ 底 底 どん底だ
この世の底だ どん底だ
もしも堤防が崩れたなら
瓦斯が爆発したならば
水攻め 火攻め その上に
天井がバレたら生き埋めだ

底の底なるどん底に
この世の底のどん底に
俺は炭掘る採炭夫

飽食暖衣のブルジョアの
****が見憎けりゃ
腕にゃ覚えたツルがある
汚れた世界の果までも
赤い血潮で染めてやる。
      (三池炭坑時代)


遺稿集『労働・放浪・監獄より』


【獄中に歌う】

煤けた壁よ 石の壁よ
俺の歩いた生活の
はげた汚れた断片が
ぼんやりとして浮びでる
牢獄の壁よ 石の壁よ

それはあまりに傷ましい
そしてかなしい生活だ
貧の悩みと 不自由の
鎖にかたくしばられた
血潮したたる生活だ

底の底なる炭坑の
坑夫としての生活よ
旅から旅を流れゆく
人夫としての生活よ

はてなき流浪の労役の
鐵の連鎖にしばられし
あゝ悲痛な生活よ
俺の歩みし生活よ
其処でつかんだものは何
重たい 重たい この鎖
鐵の鎖があるばかり。


遺稿集『労働・放浪・監獄より』


【闇に戦く】

煤煙 塵芥 漲る毒瓦斯
日光は閉され 空気は湿り
汚物の臭い タールの臭い
さてまた機械のやみなき騒音
心は乱され 眠りは奪はる
闇の底から呻きがもれ来る
肺病喘息の咳がふるへる
雪の降る日に子供が踊る
四辻にさらされた子供が踊る
泣くよな声で唄って踊る
路傍の奴等が笑って見て行く
哀れ少女が稼ぎに出掛ける
雪の降る夜に稼ぎに出掛ける
肉の切り売り パンの一片
どん底の生活制度の悪夢
工場を追はれ社会を追はれ
仕事を奪はれ 権利を奪はれ
自由を奪はれ たった一つの
権利も奪はれ 長屋に追はれる
光も熱も 朝の空気も
唯一枚の新聞も奪はれ
飢と寒さにみんなが戦く
どん底の生活 闇に戦く

『労働者』第一号より


【火の舞踏】

秋は来た
凋落の秋が来た
背を伸ばし
獄舎の窓より見渡せば
おゝ――野に山にさてはまた
森に林に凋落の
見よ傷ましい秋は来た

秋が来たのだ わが友よ
工場の友よ
ほろび行く
汝が青春の血を惜しめ

ハンマ振りすて 野に出でよ
野には栄華に酔い果てし
あゝ枯草がうちなびく

この枯草に火を放て
放ちて踊れ火の舞踏
生の歓喜の火の舞踏
われとわが身の燃ゆるまで
踊りつくせよ火の舞踏
そのあとにのみ とこしへの
われ等の春の芽が生る


遺稿集『労働・放浪・監獄より』


【死か狂か】

死か 狂か 近代人の唯一路
すべてを得ざれば即ち無なり

ともかくもあゝ人生は死か 狂か
狂ひても行け ひと筋の道

死か 狂か 鉄火熱火に踊り込め
勇敢なれよ 破調の人生

生きんとす われ強烈に生きんとす
狂ひてもなほ生きんとするぞ

こけ笑ひ 泣くに泣かれぬこけ笑ひ
狂ひ死ぬまでこの世を笑へ

求むる生活 ダリアの情熱
真夏真昼の太陽の白熱

ダリア ダリア その情熱をわれ愛す
呪へり 怒れり 病床の閑日

白熱の太陽を思ひ 血を思ひ
生活を思ひ 病床を呪へり

闇黒 冷酷 苛酷の底より 求むる生活
太陽の白熱

白熱の闘争の巷に踊り出よ
ナッパに血潮は生活の表象

熱 光 朝の空気よ 生活よ
げにわれ切に求めて止まず

突貫 突撃 死線を突破せ
血潮の汚れは×をもて洗えよ
          (アンチ賀川ズム)

泣く勿れ 悲しむ勿れ 新人よ
勇敢なれよ 汝が戦ひ

脈々のこの熱血をいかにせむ
病床 平和 呪へり 怒れり

人生は遂に一齣の悲劇なり
呪へ 戦へ 決して負くるな

死を撰べ 自由を得ずば死を撰べ
妥協を排せよ 孤軍奮闘

×けて見よ ×は炎々と燃ゆるべし
野火の壮観 ××の狂熱

敵あらば今こそ出でよ 戦はふ 病床
平和の生活に堪え得ず

奪はれしわが青春は返るなし
憎悪に生きよ 呪咀に生きよ

あざ笑へ 変質狂をあざ笑へ
衆愚に別るゝ日は遂に来た
         (巣鴨保養院時代)


【牢屋の歌】

北國の
牢屋に今日は呻吟す
 俺の思想よ、社会組織よ
革命の
朝の色にも、さも似たり
眞赤き太陽、監房の窓
監獄に来て
はじめての夜の夢よ
■野に立てるバクーニンの顔

『黒』第一号 1925.5.10


【左傾】

左行け、行け、左行け
お巡りさんがそれいふぞ
飽食暖衣のブルジユアか
大道せましと眞中を
ステツキ振り振り行く時は
左行け、行け、労働者、
お前と紳士の間には
大きな大きな溝がある。

    ▲

早く乗れ、乗れ、赤切符。
乗らんか、出るぞ、赤切符、
其処は違ひます赤切符、
青と赤とは違ひます、
あなたは赤の労働者
労働者は何処でも赤切符
ロシアの労働者も赤切符

「関西労働者」より


【狂へる労働者の夜】

正義とな!
人道とな!
そして自由平等の為だとな?
アハヽヽ──
アツハ──
角帽の学生さん
静かな眠り、夜の眠り
自由の眠りを醒さずに呉れ給へ
あなたの声が聞えた為に
あなたの姿が現はれた為に
静かな眠り、夜の眠り
自由の眠りが奪はれとしまつた
早く其処を退ひて呉く給へ
直ぐに其処から立ち去つて呉れ給へ
行かなければ承知しねえぞ!!
その髪が嫌、その言葉が嫌
寝衣にレインコートの革命家面!
被つた帽子は本能的に嫌なんだ
正義が何んだ
人道が何んだ
奪はれたる自由の為に
身を持つて投げつけむとするものゝ心には
最早正義も、人道も
口にする暇あることなし
早く立ち去れ!


【病める労働者の歌】

二年前
巡査に蹴られた靴跡が
今も眞黒に残つてゐるぞ
背中には坑夫時代の
傷のあと
足に眞黒き巡査の靴あと
奴隷から
ぬけ出ることを考へろ
必然などゝ済まして居れるか
友や師と
親兄弟とも戦へり
こんな悲劇が何処にあるのか
口には下駄の歯入れを
尊びし智識階級に
踏まれし労働者
ヨツフエは
帝国ホテルに陣取れり
喰ふに喰はれぬ日本の労働者
暗黒の石炭礦から
来た俺だ

 (一行活字潰し)

ナツパ着て獄舎に歌へ
戦闘労働者
何処へでも
行ける処につれて行け
裸になつたぞ、度胸は据わつた

『労働者』 1923.8.10


【労働者の歌】

労働者は労働□故に叛×す、
理論を止めろ、
この現実を見ろ
血は血を、
□□□□□□□□□□□、
戦闘労働者の□□□□□□□
無産者ぞ、わけて戦闘労働者ぞ
怯ゆるものか、過激法案
尊ぶはたゞ労働者の行動ぞ、
インテレゲンチヤの理論を葬れ
葬れよ、インテレゲンチヤを葬れよ、
わけて日本のインテレゲンチヤを!
ラフエルを葬れ、靴工を尊べ、
社会は工場ぞ、大なる工場ぞ
暴力、暴力、暴力なるかな、
彼等に□□□暴力は正義ぞ
□□□□□□□あらず、どん底の、
俺の生れし労働階級
黙々と鉄窓の下に坐する夜の、
その感激に今宵も生かしめ
かゝる日ぞ、□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□

(巣鴨精神病院にて、二、二〇夜)
『労働者』 1923.6.7


【無題】

ひとのため 社会のためと
云う奴の 腹の底まで
俺には分かるぞ

人生は何うの 斯うのと云うのかい
生き度いからだ
生きて行くのは

何とでも理屈をつけて
生きて行け
胡麻化して行け 行ける間は

飯を喰ひ
糞をたれ行く人生が
俺には すなわち生の充実

高遠の理想とやらが何になる
糞でも喰へ――
飯が喰へぬのに

飯も喰へず 眼ばかり
パチパチさせ乍ら
霊長などと済まして居れるか

暑い日に 田の草取るのと
代議士の 地方遊説は
いづれが尊き

碌々に
性の要求も満たされぬ
俺が悪いか 制度が悪いか

ヒネクレたこの根性は
恐らくは
子供の時には無かった筈だが

平凡に たゞ平凡に暮らせと
俺に勧めし
彼の非凡人