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額縁詩集 (1985)

油絵額  日本画額  ステンレス額  色紙額




油絵額

情念もその表現も包括して重厚に在る

揺さぶられた感動を追うように
塗りつけられた色の油たち
どんな幸福や不幸がその色彩に潜んでいようと
がっしりと枠組まれた額は
ただ護り続けることを使命にそして
むしろ喧騒を浄化するように在る


方形の中に世界を蔵う窓のように

絵には画家の人生の
或る一瞬が凝集している
永遠のように永い一瞬の思いを
四角い枠組で囲んで壁に置くと
歴史がそこから新しく流れ始めて来る
それが額の醸し出すあの
作品との一体感から浮揚してくる
空間の丸みの源泉だ


蘇るオブジェに見る人の時が逆流する

描かれた人物が風景があるいは抽象が
残そうとする心に忠実なイメージの囲いで枠づけられると
絵はその時その場所の思いを空間に再現してくれる
その時額は飾りではなく
見る人の心を抱えようとする腕だ


日本画額

引き立て役はいつも静かに美しい

日本美の独特の感性は「静」だ
その美しさを放散し続けるために額は
なお静かに在らねばならない
格調と優雅さをその中に湛えてなお
描かれているものの存在を
浮き上がらせていなければならない


伝統を攻める為に護られている逸品

日本人の美への感性は時代とともに変化している
伝統的な日本画や書の世界でも
かつての前衛が定着し今また新しい美しさが台頭している
それら日本人の情感を育んでくれるより新しい美の中にある
どこか伝統の匂いの名残をこの額に保ち続けていたい


抱き寄せるように心を囲む

だだ日本人であることで
無条件に心を開く情景がある
そこから漂ってくる情感は
私たちに共通の郷愁を秘めている
その時額は例えば形
形式美に精神をおもねる私たちへ
真っ直ぐに伸びてくる心の形


ステンレス額

壁に置くそのレイアウトが空間に優しい

張りつめた美
ステンレスの触感からはいつも
そんな視線を受けていたい
ステディにそしてわずかシャイに
描かれているものを黙認しながら
むしろ突き放すような優しさで金属の額は
その置かれた位置から存在を放射する


銀線の鋭利な走りが象形を切る

例えば壁に斜めに掛けてみるのもいい
不意に現われたその斜線に
空間がたじろぐかもしれない
そして空間はやがて
銀板の鋭い輝きの走りを
甘受しなければならないことに気づく
人は美のもつある種冷たい質感を
どう使い切れるだろうか


色紙額

端正なフォルムが言の葉の深みを醸す

言葉に込められた意味や思いの余韻はむしろ
無表情な包容がふさわしい
額はそれ自体何も語らず何も見せず
ただじっと委ねられている
僅か外側の輪郭の隅丸が
伝えようとするその優しさを教えている


居てくれた証の無言を視線が追う

一枚の厚い紙に残された思い出
飾ろうとするためではなく
豊饒にそして瑞瑞しく心に蔵うために
額を用意する
正座して言葉を追いながら
その一枚を静かに納める時
眼に映る文字の奥に浮かぶ感謝が
この額の生命だ

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