| ◆油絵額 情念もその表現も包括して重厚に在る
揺さぶられた感動を追うように
塗りつけられた色の油たち
どんな幸福や不幸がその色彩に潜んでいようと
がっしりと枠組まれた額は
ただ護り続けることを使命にそして
むしろ喧騒を浄化するように在る
方形の中に世界を蔵う窓のように
絵には画家の人生の
或る一瞬が凝集している
永遠のように永い一瞬の思いを
四角い枠組で囲んで壁に置くと
歴史がそこから新しく流れ始めて来る
それが額の醸し出すあの
作品との一体感から浮揚してくる
空間の丸みの源泉だ
蘇るオブジェに見る人の時が逆流する
描かれた人物が風景があるいは抽象が
残そうとする心に忠実なイメージの囲いで枠づけられると
絵はその時その場所の思いを空間に再現してくれる
その時額は飾りではなく
見る人の心を抱えようとする腕だ
◆日本画額
引き立て役はいつも静かに美しい
日本美の独特の感性は「静」だ
その美しさを放散し続けるために額は
なお静かに在らねばならない
格調と優雅さをその中に湛えてなお
描かれているものの存在を
浮き上がらせていなければならない
伝統を攻める為に護られている逸品
日本人の美への感性は時代とともに変化している
伝統的な日本画や書の世界でも
かつての前衛が定着し今また新しい美しさが台頭している
それら日本人の情感を育んでくれるより新しい美の中にある
どこか伝統の匂いの名残をこの額に保ち続けていたい
抱き寄せるように心を囲む
だだ日本人であることで
無条件に心を開く情景がある
そこから漂ってくる情感は
私たちに共通の郷愁を秘めている
その時額は例えば形
形式美に精神をおもねる私たちへ
真っ直ぐに伸びてくる心の形
◆ステンレス額
壁に置くそのレイアウトが空間に優しい
張りつめた美
ステンレスの触感からはいつも
そんな視線を受けていたい
ステディにそしてわずかシャイに
描かれているものを黙認しながら
むしろ突き放すような優しさで金属の額は
その置かれた位置から存在を放射する
銀線の鋭利な走りが象形を切る
例えば壁に斜めに掛けてみるのもいい
不意に現われたその斜線に
空間がたじろぐかもしれない
そして空間はやがて
銀板の鋭い輝きの走りを
甘受しなければならないことに気づく
人は美のもつある種冷たい質感を
どう使い切れるだろうか
◆色紙額
端正なフォルムが言の葉の深みを醸す
言葉に込められた意味や思いの余韻はむしろ
無表情な包容がふさわしい
額はそれ自体何も語らず何も見せず
ただじっと委ねられている
僅か外側の輪郭の隅丸が
伝えようとするその優しさを教えている
居てくれた証の無言を視線が追う
一枚の厚い紙に残された思い出
飾ろうとするためではなく
豊饒にそして瑞瑞しく心に蔵うために
額を用意する
正座して言葉を追いながら
その一枚を静かに納める時
眼に映る文字の奥に浮かぶ感謝が
この額の生命だ
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