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舟方 一

ふなかたはじめ(1912-1957)

東京京橋の河岸につながれた石炭船で生まれる。本名足立芳一。1920年に横浜に移住、京浜間で水上生活を
送り小学校中退。浚渫船の船頭・人夫など転々としつつ詩作。1932年に日本共産党に入党。1934年、遠地輝
武らの「詩精神」に参加。その前後に入獄。戦後、1946年に新日本文学会横浜支部を山田吟次らと作り、19
49年に、詩集『わが愛わが斗いの中から』(日本民主主義文化連盟神奈川地方協議会)を刊行。「新日本詩
人」にも執筆。交通事故で死去。死後、詩集刊行委員会により『
舟方一詩集』(1958)刊。プロレタリア詩
人として平易な手法による記録と抵抗を秘めた作風は親しまれている。    /「日本現代詩辞典」より


『舟方一詩集』より


【夜の河べりをあるきながら】

夜。星も出ていないやみ空。ものさびしい河岸のともし
び。死人のようにしずかな河。
音もなくながれる水。とおく明滅するさかり場のイルミ
ネーション。あまずっぱい感傷をそそる支那そばやのチ
ャルメラ。
河岸につながれた伝馬船や達磨船 小蒸気やボート。み
んな泥のような眠りにとらわれている。
ただかすかにもれる灯りが水上労働者(みずにはたらく
もの)のね息をにおわせね姿を思わせる。

橋のたもとの焼鳥やわ のれんをとり入れ かこいをた
たみ かえりの支度にいそがしい。
「うき世」のあら浪とたたかいにつかれたような焼鳥や
のおやじさんわ
今夜の売上げにほくそえんでいるだろうか
それともまたかるい財布に胸をくらくしているだろうか
「人生」のはげしい流れと おまっくるしい水音わ
このこわれかかった屋台にまでえんりょもなく押しよせて
くらしに弱き人人を ふるえあがらせ ちじこまらせ
その無情なくちで一のみにする
ああ なまぬるい感傷のしぶきわまたしても
私のこのちいさな胸をぬらす。

この夜の河べりを 私わいまねぐらえさして急いでる。
こよい私わ 真実を愛して生きる仲間たちと芸術につい
て 文学について その呼吸とあるきかたについて
あのやけつくような私たちの心臓と唇をもって語りあい
正しい芸術をだきしめる者のみがしるよろこびに
ごつごつの手をふり まっくろな体をゆすぶり
わきたち あふれる 真実の血汐と息ぶきわ
どんなに私の感情をうるおし 私の体をそだてたことだろう
私わ正しい芸術をだきしめる一人として
かくまでも大きなよろこびの浪にひたりながら
一足うしろをふりかえるとき
「めしと芸術」「生活と詩」の矛盾に
せめさいなまれ くるしみ なやみ
それわさらに 不安となり 恐怖となり
ふるい涙や かなしい身ぶるいとなる。

いい詩をかくためにわ 本の活字をかみくだき 批評に
耳をそばだて
仲間となまなましいつばきをとばしあい
ものを見つめ 感情をにえつまらせ
ねばっこい汗をながさねばならない
だがそのためにわつい仕事も休みがち
休めばくらしにわ追いまくられ
職場や肉親からわなまれ者とののしられ
仲間の病気や失業にも
ただ思うのみでなんらのたしになることもできわしない
私わときどきこのごうつくばりな私の「詩」に「三下り
半」をたたきつけ
いまさらながら 自分の頭と足どりを「うたがい」のや
すりでひっこすり
まじりものや にせものわないかと 血眼のみとり眼で
さわぐのだ
ああ その手つきのなんとちいさくいじけふるえ びく
ついていることよ。
「詩を作るより田を作れ」とわ私にとって
やつぱり千古不滅の金言なのだろうか。

友よ ゆるしてくれ
私わもう まったく身ぶりがわからない。
私わもう まったく口の動かしかたがわからない。
友よ 私の詩のしりきれとんぼをせめないでくれ

                  1935.6

【ふるさとえの歌】

おれの故郷わ隅田川

そのふるさと 隅田川を
見ぬこと――七年
お前 隅田川の流れわ その川岸わ
いかに変ったことだろう

石川島造船所の機械のひびきが耳をうち
クレーンの動きが瞼にうつる稲荷橋の下
そこにつながれた五十噸たらずの石炭船
「山本丸十三號」
それわおれにとって忘れることのできない「揺籃」だ

七年――この歳月わ くるしい斗いの明けくれわ
一人の船頭の子に くらしに屈せぬものを
くらしのこくのある味を
ねっとりとたたきこんでくれた
赤銅色のこのからだに はらわたに

斗いえの道わ揺れ 気もちわうきしずみ
仕事のあてわないこのごろ
せめてわむかしの想い出にひたるとき
思うともなくうかんでくるのわ ふるさとのこと
お前――隅田川のこと

のぼりくだりの小蒸汽の警笛 伝馬船の櫓のきしみ
行商船(うろや)のよび声 河岸のともしび 電車のひびき
あかあかとたかれた寒さをしのぐ石炭の火
千住大橋から永大橋までの数々の橋 無數の枝河
しずかに眼をとじ ねころべば
これらむかしのありさまが
腹の底から眼頭えまで
なまあたたかいものとなって
ながれだしこみあげてくる

ごみや流油(あぶら) 木片(きぎれ)やわらむしろ
犬や猫の死骸 ときにわ人間の死骸
さまざまの道具やそのこわれ切れっぱし
水にうかぶありとあらゆるものの流れ
川のにほい 川の呼吸
吸う息――上げ潮六時間
吐く息――下げ潮六時間
二十四時間ふた呼吸
その呼吸――その流れによって
かまや茶わんがあらわれ 米がかしがれ
たき木がつくられ お茶がわかされ
仕事着やからだがあらわれてゆく
そこにわおれたち船頭のあらあらしい
またものかなしい河から河えのくらしが流れてる。

酒とばくち 女郎買と浪花節
ときにわ同じ労働者からさえ
さげすまれ わらわれる
無智そのものの世うな船頭たちのくらし
だがその船頭たちも「京浜船夫労働組合」をつくりあげ
くらしを守るたたかいの旗をかかげ
ときにわいくつかの勝ちどきをあげた
一九三一、二年ごろの
あの歴史的な斗いの浪のたかまりと共に

いまかつての反抗や憤懣は夢のごとく
もくもくと櫓を押し棹をさしている船頭たち
なりをひそめて流れる隅田川
だがおれわ信じる 信じたい
お前の河面に旗ひるがえる日のくることを
お前の流れに歌声なりひびく日のくることを

川よ 隅田川よ ふるさとよ なかまらよ
その日のために そのために
おもいをかため ほりさげて
「いばらの道」をふみしめぬこう
今日のくらさのなかに生きぬこう
                  1935.1

註 水上生活者わ河に流れている木ぎれをひろってたき
  木にし、買うことわほとんどない。また大正五、六
  年頃までは、隅田川の吾妻橋より上流え行くと、川
  の水がのめたものである。
附記:船頭は隅田川を大川とよんで隅田川とよばないが、
   ここでわ隅田川としておく。


【歌】

 (一)
ともだちよ
恋と花と もうひとつ
歌がこの世になかったら
私たちわどんなに淋しいことだろう
ともだちよ
歌を忘れたともだちよ
また歌を忘れないともだちよ
象牙の櫂わ流され
銀の小舟わしずめられ
私たちの羽わぐっしょりぬれたけど
胸にたたんだ歌だけわしずまない
ああ 歌わ誰でも持ってる宝もの
心の底でぴかぴか輝く宝もの
                  1937

 (二)
歌をうたってやる 歌をうたってやる
酒が呑めるうちわ 歌をうたってやる
恋がしたいうちわ 歌をうたってやる
ものが考えられるうちわ 歌をうたってやる
歌をうたってやる 歌をうたってやる
だれが何と云っても 歌をうたってやる
「詩を作るより田を作れ」なぞと云う奴の
一人でもこの地上に生きている限りわ
 歌をうたってやる
                  1938

 (三)
今夜私わお酒に酔いました
そのせいか無性に歌がうたいたい
千万人の心に花を咲かせる歌がうたえたら
明日の仕事わおろか一生を
棒にふっても後悔などわいたしません
とわ云うものの金一円六十八銭の
明日の仕事が気にかかります
偉大な歌わそんなこまかなことからわ生れない
とわ云うもののそんなこまかな神経のなかにこそ
偉大な歌がひそんでいる
こいつもまんざらうそでわありません
こう思い ああ思い
思いおもっているうちに
夜わふけ夜わ明け私の歌わ
鳴りひびく工場のサイレンともろともに
はかなく消えてゆきました
                  1938

 (四)
ともだちよ
歌わいいものだ
愛すべきものだ
きみわ歌うだろう
恋に敗れたときわ
理想の花の散ったときわ
胸はり裂けるほど
ずたずたに歌うだろう
それわきみの心の傷をいやすだろう
そこから新たな勇気と反省が
肉づき もりあがることだろう
そこからより美しい愛の花が咲き出すことだろう
その花の一りんが きみのその
よごれた仕事着の胸をかざることだろう
                  1938

 (五)
私わ酒に酔うと詩がうたいたくなり
酔ってうたうような詩に
ろくなものがあるはずわないと思い
そう思うことは卑屈であると思い
ふんぷん 心わ百千の雪のふるように乱れてゆき
まとまるものもまとまらず
ためいきと好きな女の顔だけが
私の歌のノートにしみこんでゆく
                  1938


【つらつき】

労働者(はたらきびと)にわ知識によって生きる人のごと
きつらつきをなし
知識によって生きる人にわ労働者としてのくろき手をつ
き出しおのれより力よわきものにわ力によって決せんとし
おのれより力つよきものにわ力をさげすみ
知識によって決せんつらつきをなす

ああ 時あって耳をすませばわがつらつきわ
しょう しょう と木枯のごとく泣いている

                  1938
+------+
(註)
 ■つらつき=面つき、面がまえ


【わが愛わが斗いの中から】

 (一) 愛とにくしみ


愛とにくしみわ一つの感情のうらおもて
敵に対して鉄をも焼きつくすような
激しいにくしみをもってこそ
愛する人の心を焼きつくすような
熱いせっぷんができるのだろう
愛する人の心を焼きつくすような
激しい愛情がもえてこそ
いかなるときにも敵に屈服しない
にくしみが生れ出ることだろう
ああ 愛こそわにくしみのみなもとである
そのにくしみこそわ愛のみなもとである


 (二) 愛と情熱


私わあのひとが好きでたまらない
あのひとの顔 あのひとの言葉 あのひとの心を
ああ あのひとわ私の心を
見えない綱でぎりぎりにしばりあげてゆく
それなのに私わなぜに
この想いをうちあけられないのだろう
それわ私に情熱がないからであり
その情熱のなさわ
人民の敵を蛇やとかげにもまして
激しくにくむ心が湧かないのと
ただひとすじつながっている
斗いをなすものが敵に対して
百パーセントのにくしみをもてぬと云う
これほど危険な斗いの仕方わないだろう
敵との斗いで身を焼かれても悔ないほど
火のようなにくしみがもえるなら
首がとんでも敵にかみついてゆくほどの
情熱が にえ立ち ふっとうするだろう

その それほどの情熱が
にえ立ち ふっとうする そのときわ
私の胸のおく底を流れる愛のせせらぎが
どっと怒濤にかわりしぶきをあげて
あのひとの胸ぞこ深く流れこむことだろう

                  1947.6


【美しさによせて歌える】

 (一)

かたちのうつくしいひとをうつくしいひととながめることわ
それわいとたやすいことであり
またかたちのうつくしいことも大いによろしいことである
だがそれよりももっとよろしいうつくしさわ
心のうつくしいことである
かたちのうつくしさにわおとろえもありあきることもある
心のうつくしさにはみがくことをおこたらないならば
おとろえもなくあきることもない
かたちのうつくしさ心のうつくしさ
ふたつそなわればもちろんこれにこしたよろこびわない
だがもしひとつなら私わ心の方をとりましょう
そのひとと そのひとの
かたちと心のうつくしさの
そのどちらがよりうつくしいか
それを見わけるのわ
それはあなたの心のうつくしさ
眼にわ見えないうつくしさを見いだすことわ
なかなかにこんなんでわあるけれど
このうつくしさわいちど見いだすと
くらいところでもはっきり見えるし
遠くはなれていてもそばにいるように見えるし
おたがいの心がけしだいでわ
そのうつくしさわ時がたつほどひかりかがやいてくる
しずかに眼をとじ思いうかべればそのひとの
ひかりやかげりや色とりどりな心の波のよせ返し
ああ心のうつくしさわ千変万化で見あきることがない

 (二)
花でなく人形でなく生きたひとの心のうつくしさを
私の心の底にかざるにわ
なかなか手数わくいますがまたそれだけに
くめどもつきぬたのしさが
こんこんと音をたて
この胸の底から湧きあがってくる

 (三)
それほどすばらしい心のうつくしさとわ
一体全体どんなものですか
それわかくべつ新しいものでもなければ
とくべつむずかしいことでもない
自分ひとりのことだけ考えて生きないで
より多くのひとの幸せをより多く考え
そのことをより多く実行に移すと云うだけのことですよ

                  1947.7


【ほう丁とまな板の間から】

今夜もおそく私わ地区委員会の仕事からかえって来た
いつも先にかえる妻の手によってつけられる
室のあかりわ消えている
妻も今夜私たちの仕事の相談で
はたらく者の社会をつくる相談で
こんなにおそくなっているのだろう
私わあかりをつけ火をおこし
じゃがいもをきざみ茄子を切り
すいとんをつくる支度にとりかかる

だが「このすいとんをつくる時間を
本をよみ詩を歌い思さくを深めることに使ったら
さらに有こうな時間になるだろう
すいじわ妻がかえってからやらせよう」
こうした思いがじゃがいもをきざむ
ほう丁とまな板の間から生れ出してくる

女性解放を歌いあげている私のふところで
一つの卵があたためられ ひよこにかえり
社会的な仕事の青空たかく舞いあがろうと
かれんな眼ざめの羽ばたきをはじめると
その羽ばたきをおさえつけ
台所にしばりつけようとする
私と云う男のエゴイズムよ
男の社会的な仕事わ 私の歌わ
女の犠牲と涙によってのみ
伸びひろがり心よいリズムとなって生れ出る
ああ 民主革命の鐘をうちならし
女性解放をとりあげている男たちの家庭の
なんと立派な民主化よ
夫婦生活の朝夕にまで喰いこんでいる
天皇制のゆるぎなさよ

(お前がお前の腹わたにまで喰いこんでいる
その天皇制を打ちやぶらずして
どうして民主革命の鐘からつき出されるいんりつを
自分のいんりつとすることができるたろう)

妻よ
ともすればため息と涙と食慾だけに終ろうとする
貧しい私たちのくらしの中にあって
つねにあかるい希望と未来の実現に
その胸をかきたてかきならしている妻よ
今夜わ私が食事の支度をするから
お前わそこで男の仲間たちと
仕事の相談を心おきなくつづけなさい
女性の解放がほんとうに行なわれる社会をつくる相談を
働く私たちがたのしくくらせる社会をつくる相談を

                  1947.9


【かおりたかく黄金色にかがやく歌】

腹がへったらくい物をくおう
うんこに変化したらひねり出そう
のどがかわいたら水をのもう
小便に発展したらほとばしらしめよう
知識のさつびら切りすぎて
自然の生理をむしするな
ただくい物わ栄養のある物をくおう
なかったら沢山ある所からとってこよう
とりに行ってしばろうとしたら
しばりきれないほど大勢で行こう
とって来たのみ物くい物が
小便うんこになったら
ざしきにでわなく便所に出してやろう
よろしく科学的な調節を忘れるな

かなしみの空気をすえば涙の歌が出る
よろこびのくい物をくえば笑いの歌が出る
にくしみの感情をあじわえば怒りの歌が出る
歌わ心臓のハイセツ物だ
血汐の流れだ 吐く息だ
ただより肥料成分の高いハイセツ物にするために
階級的に清じょうな血汐にするために
九十五%の人々にかおりよい呼吸にするために
本能的につっぱしる生理の荒馬に
科学的な手づなをつけておこう
「誰のために何をするのか」
おちぬよう ころばぬよう
目的のくらをすえつけてやろう
方針のてい鉄を打ちつけてやろう
おお 敵わたまらぬと鼻をつまんでにげ出し
味方わ食糧増産の原料と大切にする
私のハイセツ物よ わが歌よ
栄養補給作業をおえた功績を
こってりと黄金色にかがやかせ
第二の意義をプンプンとまきちらしながら
仲間のたまり場にとびこんでゆく
偉大な私のハイセツ物よ わが歌よ
みじかい生涯にながい小説をよませようとする人々に
自然発生的だと知的な鼻をつまむ人々に
生理学をむしした歌と斗いわ
いかにあじきないものであり
むざんな敗北をとどけるかを
敵の鼻 そぎおとすほどの匂いと共にしらしめよ
かおりたかく黄金色にかがやく
私のハイセツ物よ わが歌よ

                  1948.4


【今日ここに】

 ――新しい「高砂や」として仲間の結婚式におくる歌――

今日ここに私たち二人のくらしが一つにむすびあう
今日ここに私たち二人の心が一つにかたまりあう
今年 今月 今日 このときから
あなたのくらしが東にむかえば
わたしのくらしも東にむかう
今年 今月 今日 このときから
あたしの心がたかなりはずめば
あなたの心もたかなりはずむ
二人のくらしと心が
こんなにかたくかたまりあって
二人の思想と信念が
どうしてはなればなれでいられよう
どういう生きかたをして
どういう死にかたをするかが
また何をやらなければならないかが
どうしてはなればなれでいられよう

今日からのあなたとわたしの二十四時間が
今日からのあなたとわたしの生がいが
あますところなくかたまりあうそのときわ
いかなる飢えもさむさも牢獄も
あなたとわたしを二つにひきさくことわできないだろう
この何ものにもひきさかれることのない
この火にもとけない水にもながされない
あなたの愛とわたしの愛が今日ここに
切れてもとけぬほどにむすびあう
くだけてもはなれぬほどにかたまりあう
ああ くだけてもはなれぬほどにかたまりあう
あなたの愛とわたしの愛が今日ここに

             1949.4「新日本詩人」2号


【トマト】

さし入れのトマトわ三つ
同房わ五人
反戦関係が三人
マヤクブローカーが一人
どろぼうが一人
このトマトをどうわけよう
まずおれわ最低一つくいたい
できれば二つくいたい
いやみんなくいたい
この舟方一の大馬鹿野郎のしみったれ

さし入れの三つのトマト
二人の反戦の仲間と一つづつくおう
でわあとのマヤクやどろぼうわ
おなじ毛布でねておなじめしをくっているのに
指をくわえていろと云うのか
この舟方一の大馬鹿野郎のしみったれ

さし入れの三つのトマト
まずおれが一つくう
あとの二つを反戦仲間の二人と
マヤクとどろぼうの四人で半分づつくつてもらおう
それでも反戦の仲間を
マヤクやどろぼうと
おなじにあつかうのか
この舟方一の大馬鹿野郎のしみったれ


【詩と酒と牢獄と】

パラ パラ パラ パラ
二月の雨がおれと女房と子供のねている
この今川やきの小屋の屋根をたたいている
ポッ タン ポッ タン
屋根うらにつしたるバケツに雨がもっている
おれわ一昨年(おととし) 横浜市役所を首になり
またもとの自由労働者
「失業保険手帳」と「就労手帳」わ
いつも服のポケットに入っているけれど
おれわあんまり働きに行ってない
またあんまりやとってくれる所もない
よしまた仕事があっても詩のことや
時計を売って出しはじめた「文学新聞」のことで
おれわやっとありついた仕事を棒にふる
おれわいま
今川やきをやく女房のスネかじり
いやかじってばかりわいない
ときにわアンコをはこびウドンコをあつめ
今川やきをやくこともある
だがおれがやくとアンコを入れすぎるので
あんまりやかない方がいいらしい

おれわいま
今川やきの小屋でくらしている
夜の十一時をすぎるころ
「日本一」とかいた今川やきののれんをとり入れ
土間にリンゴの箱をならべ
女房と子供をねかせてから
おれわ焼酎やどぶろくをのみに行く
かえってから本をよみ詩をつくる

となりにねている女房わ
なんとかリンゴ箱の上でないところ
たとえ三畳でもいいから
まっとうな室がほしいと云っている
ああ まったくつつましい女房の願いよ
詩と酒と時にわ牢屋にひっぱられるような思いを
この上なく大切にしている
おれと云う手前勝手な亭主の行き方よ

だから近ごろ仲間わおれに意見を云う
きいているおれのうわべの心わ
ご意見 ごもっとも と頭をさげながら
なにをいってやがるんだ ちきしょうめ
ごみやくその中からも
役に立つところをくみ出すことを考えろ
第一おれわ だれのくれるくんしょうでもくんしょうわ
大きらいだ
こうおれのもうひとつの心わふてくされる

こんなムシャ クシャした思いにしずみながら
おれわいま どぶろくを呑んでいる
おれわいま詩をかいている
今朝の新聞にのっていた
「将校服 兵隊服 高く買います」という広告について
再軍備に賛成が六〇なん%とか云う数字について
なかなか いろいろと手を廻してかかれている新聞記事に
ついて
だから仲間もあごのくたびれるほど
おれに意見を云うんだと云うことについて
だからおれもおれの仕事の量と「重労働」の量を
つねに考えているんだと云うとことについて
おれわいま 今川やきの小屋のリンゴ箱の上で詩をかいて
いる
ちきしょうめ ちきしょうめ と
敵にも味方にも自分にも腹を立てながら詩をかいている

             1951.4「神奈川文学」2号