8mmビデオ(SONY CCD-TR75)の修理

会社の上司から、不調なハンディカムを預かってきました。SONY CCD-TR75で、いわゆる旧パスポートサイズのHi-Fiステレオ録再機の初代になります。
実は、これの京セラOEMであるSAMURAI video8をもっていますが、これも数年前からまともに動作しません。
しかし、ある意味ドナー機がある訳で、いざとなれば使える部分同士くっつけて(世間ではこれをニコイチという)修理も可能かと考え、引き受けました。

これを預かってきました。おそらく、購入から10年以上は経っていると思いますが、気になるほこりや汚れはなく、状態は良いようにみえます。

まずは症状の確認です。
預かったときには、「テープが巻きついてしまう」ということを聞いていましたが、動かしてみたところ、ほかにも次のような症状がありました。

1.ビューファインダーに画像が表示されない。光線が縦1本だけ。(左側の写真)
2.外部出力でモニターテレビにつなぐと、同期がずれたような画面しか表示されない。カメラスルーも、テープ再生も同じ。(右側の写真)

で、私が持っているOEM機を動かしてみると、なんと!症状がまったく一緒...orz
ということは、ニコイチ計画も難しいかも...とは思いましたが、できる限りやってみようということで、作業を始めました。

分解開始です。
この機種(ほかもそうかも)では、取り外すべきビスに矢印が入っていて、分解は比較的やりやすいように思います。ビスの数は多いですが、サイズはほとんど同じ(とはいえも三種類はありますが)で、細かくメモらなくても何とか解体できます。まずは前面のマイク側を取り外すことができました。

で、マイクを取り外したところを見てみると...

すさまじい密集度です。何枚もの基板が立体的に組み合わさっており、高度に集積化された現在の機器に比べ、ひとつひとつの部品の集積度は低いのですが、あらかじめ決められたサイズになんとしてでも入れてしまおうという気迫が感じられます。

さらに、この時点で不具合の原因が想定できました。見てのとおり、悪名高き表面実装型の電解コンデンサがびっしりと使ってあります。

加えて、この時点で私の鼻腔をくすぐる妖しい香りが内部から発していたことも理由のひとつです。

8mmメカデッキ側のカバーをはずします。

写真ではテープ部分のカバーがついたままですが、先にはずしておくべきと思います。

カメラ側を分離します。

この部分はかなり複雑で、どこからはずして良いかかなり悩みました。結局、上側の電源スイッチ部分が引っかかることが解かり、細いマイナスドライバーでコジってはずしました。

このときに、メカの中からなにかがコロリンと出てきました。

これって、もしかして...

私が持っているOEM機と比べてみると、明らかに一箇所、ガイドローラーが無い所があります。
テープが巻き込んでしまうのはこれが原因と考えられます。

※左が私の持っているOEM機で、右が修理している機体です。赤い円の中心付近に、左側の画面では白いガイドが見えますが、右側にはありません。

こういうときは同じものが2台あると作業がはかどります。(あたりまえ)

なんとか三枚におろせました。正確には、一番左はカバーな訳で、中央がカメラ基板、右側がデッキメカとビデオ基板となります。右側はさらにメカ部だけ分離できますが、今回はここまでとしておきます。

ここから原因調査の開始です。とはいえ、整備マニュアルがあるわけでもなく、目と鼻と経験と、最後は勘での修理となります。

まずは最初に見つけたのが、カメラ基板についていた普通サイズの立形電解コンデンサです。足の付け根から液がにじみ出ており、基板にまで影響が出ています。明らかにパンクして電解液が噴出した後と思われます。

先ほどの芳しき香りの元凶はこれかもしれません。

これはビデオ基板になりますが、表面実装型の電解コンデンサの電極部分の半田にツヤがなく、よく見ると液体で濡れたようになっています。これもパンクしていると思われます。

この基板には、ほかにも4個程度、同様に液漏れを起こしているコンデンサがありました。においをかいで見るとやはり上のコンデンサと同じにおいがします。

これはマイク側についていた基板ですが、左側の基板には表面実装型電解コンデンサがびっしりついています。これもよく見ると端子の半田にツヤがなく錆びたようになっている物が多く、問題が有ると思います。

ここまで分解してみた結果、問題があるのは大きく2点になります。
ひとつはガイドローラー(違う名前かも)の抜け落ちで、なぜ抜けたのかは不明ですが、これが無いためにテープ走行が正しく行えず、巻きついてしまう症状になったと考えられます。
もうひとつは多数の電解コンデンサのパンク/液漏れ。Webで調べてみても電解コンデンサの経年劣化による不具合は非常に多く、特に表面実装型は壊れやすいようです。画像が正しく表示されないのはこれが原因と考えられます。

さて、修理方法ですが、ローラーはとりあえず物理的にもとの位置に取り付ければ問題ないはずです。問題は電解コンデンサの方で、普通の立形は容易に入手できますが、表面実装型は地元広島ではほぼ不可能です。(特定の容量なら売っていますが、今回交換しようとする容量の物はありませんでした)この場合、仕方がないので普通の立形を寝かすなり、リードを引き回して隙間に持っていくなりして何とか交換を試みます。

左側は交換する前の表面実装型電解コンデンサ(銀色の円筒形の部品)と、交換する普通の立形電解コンデンサ(ブルーの筒型の部品)を比べたところです。見てのとおり、サイズがぜんぜん違いますが、幸いなことに周囲に結構なスペースがあるので、うまくリードを加工して、右のように取り付けました。

電解コンデンサの電解液は結構曲者(たしかに臭い)で、半田のノリは悪くなるわ、周りの部品を腐食させるわ、ロクなことになりません。今回も、不良コンデンサを取り外し、アルコールで清掃して、再度フラックスを基板に塗ってから取り付けました。

ビデオ基板側では、丸印の3箇所を交換しました。いずれも、一見まともそうなのですが、半田付けしてある端子に半田ごてを当ててみると、電解液特有のにおいがするため、液漏れを起こしているのは間違いなさそうです。
これはマイク側にあった電解コンデンサ山盛りの基板です。さすがにスペースが足らないので、とりあえず見た目で傷みがひどい二つだけ(青いのと黒いの)交換して様子を見ます。

次に、最初に見つけた普通サイズの青いコンデンサなのですが、これがもっとも凶悪でした。なんとかコンデンサを取り外すことができたのですが、綿棒とアルコールで周囲を清掃していたところ、1mm×2mmぐらいのチップコンデンサが、「ぽろっと」取れてしまいました。(じつはもうひとつ、計二つも)電解液が表面張力で基板面に広がり、周囲の部品の半田まで腐食させていたようです。

あまりに小さいので半田ごてが入らず、仕方がないので写真中央上側に写っている白いコネクタも取り外して、何とか半田付けすることができました。

中ほどに大きく写っているのが交換したコンデンサです。

下のほうに赤丸が二つありますが、これが巻き添えを食らったチップコンデンサ2個です。

最後にガイドローラを元の位置にはめ込みます。特に何かで固定されているわけでもないようで、また取れてしまいそうです。瞬間接着剤でも使えばいいのかもしれませんが、下手に軸についたりすると回らなくなってしまいそうで、今回は使っていません。

ここまでで、とりあえず仮組みし、電源を入れてみました。

おおっ。

ちゃんとカメラスルーで表示できるようになりました。テープ録画・再生もOKです。早送り・巻き戻しも問題なく走行系も正しく動いているようです。

しかし、ビューファインダーはいまだ白い線だけです。

続いて、ビュファインダー側も分解してみました。

ここにも電解コンデンサがたくさんあります。
で、これも片っ端から交換してみたのですが、結果として縦に線がひとつではなくファインダー全体が明るくなるようにはなりました。
しかし、肝心の画像がうまく表示できません。なにか写っているのはわかりますが、ファインダーとしては使えません。

コントラスト調整も効かないことからコンデンサ以外にも(というか、コンデンサの液漏れに巻き込まれて)他の部品が破損したことが考えられます。

しばし考えて、邪道ではありますが、手持ちのドナー機を使うことにしました。
症状が同じ(ビューファインダーに縦一線)なので、同じくだめかもしれませんが、こちらは慎重にコンデンサひとつ交換する毎に動作確認をしたところ、大きなコンデンサ二つ(ひとつ上の写真で黄色いコンデンサ)交換したところで正しく表示できるようになりました。これをブラウン管ごと基板交換しました。

すべて組み立てて、動作確認を行い、仕上げにポリメイトで艶出しを行いました。(ちょっとテカリすぎたか?)

とりあえず、これで使ってみていただくことにします。

今回はかなり手ごたえのある修理となりました。ある意味、今のデジカメやデジタルオーディオ機に比べると、当時の8mmビデオやカセットテープのプレーヤーの方が、メカニカルな部分があることと、部品の数が多い=集積度が今に比べると低いため複雑さは段違いだと思います。

しかし、今回も主たる病巣は電解コンデンサのようです。電解コンデンサだけ交換すれば直る機器ってかなり多そうですね。

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